100年先のブランドづくりを支えるのは「愛し、愛される」という意識。 味の素 がめざす、消費者との理想のコミュニケーション
PESOモデルでコミュニケーション設計
一方、コミュニケーション設計の構築に際して現在活用しているのがPESOモデルだという。味の素ではマス4媒体を活用しているが、そこだけに囚われないコミュニケーション設計を構築するために、PESOモデルは欠かせない。 たとえば、ペイドメディアやアーンドメディアに出稿した広告が、どんな消費者の声を得てどんな反応を起こし、製品に興味を持って好きになってくれるのかを調査したり、シェアードメディアで消費者が発信してくれた「好き」をシェアしたり、加えてそれらをピックアップしてオウンドメディアで発信する、ということに取り組んでいるという。 コミュニケーションデザイン部としての成功事例のひとつが、「Cook Do® 香味ペースト®」のSNSキャンペーンだ。入社2年目の社員が手掛けたもので、タレントの「クロちゃん」さんが、同じくタレントで恋人でもある「リチ」さんの作ったお料理を食べるというショート動画をTikTokとインスタグラムで展開したものだ。結果として、食品会社としては例がないオーガニックで1000万バズを記録した。「MDCが掲げるチャレンジ精神を体現する事例でもあった」と、向井氏は振り返る。 「元々は社内で選ばれなかった企画だったが、本人の熱意が強く、直接タレント事務所と交渉したり、パイロット動画を自分で撮ったりしていた。そうした『好き』という熱意が動画を通じて、消費者にも伝わったのではないかと思う」。 また、従来インフルエンサー施策はエージェンシーから味の素という商流が基本だったが、本施策では直接、味の素がインフルエンサーと交渉したことで味の素からエージェンシーという商流を生み出し、コストを10分の1に低減したようだ。さらにそれを、フロー化することにも成功したという。
100年先のブランドを作ること
PESOモデルを活用したコミュニケーション設計でとくに重視しているのは、「さまざまなチャネルで得られたファンの言葉をより大きく広げていくということだ」と向井氏は語る。このスタイルでの成功事例のひとつが、2023年秋に展開した「CookDo® オイスターソース」のキャンペーンだ。 TVCMなどと平行して、地方紙やレタス農家と連携した「レタス保存新聞」という新聞広告を実施したところ、SNSで大きく反応があった。「レタスが保存できて嬉しい」「腐らなくて便利」といったSNSの声を味の素がオウンドで発信することで、「レタスを新聞紙で巻く」ということがお役立ち情報としてバズり、他媒体に大きく波及したことで「CookDo® オイスターソース」は4年ぶりにシェアNo.1を奪還、そして売上にも大きく貢献した。 こうした成果を受けて、「今後はインフルエンサーマーケティング施策を強化していきたい」と向井氏は意気込む。これまでエージェンシー任せだったインフルエンサーの選定・依頼は、現在はすべて味の素の社員が担っているという。 「この人は『味の素、あるいは味の素の製品が好きそう』と感じる人に直接連絡して、そこで気が合ったインフルエンサーたちと一緒に仕事をしていくというプロセスが大事。フォロワー数は大きく増えるわけではないが、少しずつ積み上げるように増やしていっても構わない」と向井氏。こうした積み重ねの結果、味の素のメディアの露出は2023年、前年と比較して170%ほど伸びたという。 向井氏はMDCの方向性について、こうまとめた。「ファン作りを通したブランディングが、これから100年先のブランドを作ることに続いている。それを支えるのは『愛し、愛される』という意識。この流れを大事にしながら、我々と消費者とのあいだを丁寧にコミュニケーションデザインしていきたい」。 向井 育子/味の素株式会社 コミュニケーションデザイン部 部長。1993年に味の素株式会社に入社し、広告部に配属。13年間従事したのち、「事業部のほうがもっとクリエイティビティがあるのではないか」と思い立ち、2006年に事業部門 調味料部・家庭用事業部へ異動。その後、2014年に味の素冷凍食品株式会社に出向し、商品開発グループ長や製品戦略部長(家庭用・業務用)などを務めたあと、23年7月に現職へ就任。 Written by 内藤貴志 Photo by 三浦晃一
編集部