全日本2位、16歳の中田璃士は強気が大きな武器 ガッツポーズは「ありえない数やりました」
【完璧な演技でガッツポーズ連発】 初優勝を意識して臨んだ有力選手たちがミスで自滅する展開になったフィギュアスケートの全日本選手権男子シングル。そのなかで旋風を巻き起こしたのが、ジュニアの中田璃士(16歳/TOKIOインカラミ)だった。 <写真多数>みごとな演技を見せた中田璃士ほか全日本フィギュア2024フォトギャラリー 初出場の2022年は、ショートプログラム(SP)26位でフリーに進めず、ジュニアGPファイナルで優勝して臨んだ2023年は、SP、フリーともミスが重なり、総合17位と悔しい思いをしていた。 今季は、ジュニアGPシリーズの中国杯で、自己ベストでシーズンスコアジュニア1位の233.53点を出していたが、連覇を狙ったジュニアGPファイナルはSPで1位発進しながら、フリーではジャンプのミスを連発し、215.33点で3位だった。 「ジュニアGPファイナルは、日本男子初の連覇がかかったなかですごく緊張して悔しい思いをしたので、絶対に全日本でいい演技をしてやるという思いが強かった。この大会は、2年前も去年も悔しい思いをしていたので、やっといい演技ができてうれしかったです」 中田がこう話すように、12月20日のSPは、最初の4回転トーループに3回転トーループをつけて連続ジャンプにすると、次のトリプルアクセルでは2.51点の加点をもらい、最後の3回転フリップもしっかり決めた。スピンとステップはすべてレベル4の完璧な演技。演技中からガッツポーズを繰り返した。中田はガッツポーズを「ありえない数やりました」と笑った。 ISU(世界スケート連盟)公認の自己ベストを9点弱上回る90.31点で、鍵山優真に次ぐ1.74点差の2位。プレッシャーを感じさせないのびのびとした演技が印象的だった。
【強い気持ちで宣言通りの表彰台】 上位で唯一のジュニアで、世界選手権の代表権獲得のプレッシャーがないなかで滑る立場。だが中田は、重圧がないわけではないと強調した。 「ジュニアGPファイナルのフリーでは練習からほぼ失敗しないで跳べていた4回転トーループのミスが想定外で、それからいろいろ崩れてしまったので緊張した。今回(全日本)はショート2位発進で、『失うものは何もない』と言われていたけど、絶対そんなことなかったです」 フリーへ向けてのプレッシャーは、自らつくり出したものでもある。会場入りする時、コーチでもある父の誠人さんに「6位以内に入ればすごいな」と言われたが、本人は「以前は全日本で6位以内に入れれば十分だと思っていたけど、ジュニアGPファイナルでの負けで、結果を残さないと去年の自分より弱いんだと思われるから、それが嫌で全日本でも3位以内を目指した」と、表彰台に乗ることを宣言した。 フリーの『パイレーツ・オブ・カビリアン』は、誠人さんが現役時代に使っていた曲だ。中田は「今シーズン、『パイレーツ』はいい演技があまりできてなかったので、パパやママには『来シーズンは違う曲にしたほうがいいんじゃない』と言われて。でもせっかくこの曲を滑れているので、うまくできることを証明したかったです」との思いを明かした。 本番の演技で中田は気持ちの強さを見せた。今季のジュニアGPファイナルでも入れていた4回転トーループに加え、冒頭に4回転ループを入れる4回転2本の構成にしたのだ。中田は昨季のジュニアGPファイナルでもフリー直前になってそれまで1本だったトリプルアクセルを2本にし、ともに成功させて逆転優勝につなげている。 「もともと左足を痛めていて、4回転はトーループを2本にすることができなかったので、最初からループをやるって決めていました。ループは朝の公式練習で降りて自信はあったので、自分を信じて跳んだ。自分のなかでは"超きれい"に決まったなと思ったけど、あとで(映像を)見たらそんなことなくて少しがっかりしました」 そう笑った中田だが、4回転ループで勢いに乗って次の4回転トーループを2.99点の加点のジャンプにすると、後半の連続ジャンプでは左足の状態を考慮してセカンドの3回転トーループを控える構成にしながらもノーミスの滑り。合計は、公認の自己ベストを30点以上上回る263.99点にして鍵山に次ぐ2位になった。
【負けがあったからこそ今の自分がある】 「振付師のミーシャ・ジーさんにも『ジュニアGPファイナルの負けがあったからこそ今の自分がある』と言われて。本当は(連覇で)歴史をつくりたかったけど、そのおかげで今回2位になれた自分があるのではないかと思います」 今大会、270~280点を出す実力を持つ複数の選手たちが、大きなプレッシャーのなかで力を発揮しきれなかったという面もある。だが、16歳で2位という位置につけられたのは、中田が攻めの気持ちが生んだ結果だろう。強気は彼の大きな武器になる。そんな期待を感じさせた。
折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi