なでしこジャパン、ベスト8突破に届かなかった2つの理由。パリ五輪に見た池田ジャパン3年間の成長の軌跡
「世界一のブロック」で対抗、遠かった1点
ロングボールを多用する戦い方を、アメリカは途中から諦めたようだ。選手の立ち位置や配置を変えながら、柔軟に攻め手を探っていた。どんな相手にも横綱相撲で勝っていた以前のアメリカとは違う。それは、エマ監督がもたらした変化かもしれない。 それでも、日本の守備網に隙はなかった。ABC Newsによれば、エマ監督は試合後、堅実に戦術を遂行する日本のスキルを絶賛し、「日本のブロック(守備)は世界一だ」と語り、忍耐が必要な試合だったと総括している。 一方、カウンターを狙う日本の決定機は多くなかった。前半は田中美南がカットインから強引にシュートに持ち込み、分厚い攻撃から守屋都弥のフィニッシュにつなげたシーンがハイライト。後半も長谷川のクロスに植木理子が飛び込んだ場面でゴールの匂いがしたが、いずれもゴールネットを揺らすには、精度と強度が不十分だった。 試合を決めたのは、元NBAスターのデニス・ロッドマン氏の娘であるトリニティ・ロッドマン。180cm近い長身とピンク色の派手なおさげが印象的な22歳のヤングスターは、延長前半アディショナルタイムにカットインから強烈なシュートを叩き込み、勝者となった。
ベスト8突破に必要な2つの要素とは?
戦術的な駆け引きや組織力の面では、2011年のワールドカップ(日本がPK戦で勝利)や2012年のロンドン五輪(2-1でアメリカ勝利)など過去の名勝負にも匹敵する好ゲームだったと思う。 だが、日本はまたしても東京五輪、昨夏のワールドカップと同じベスト8の壁を越えられなかった。9日間で濃密な4試合を戦い抜いた選手たちの言葉に耳を傾けると、日本に足りなかった2つの要素が浮かび上がる。 一つは「ボールを保持する力」だ。今大会で、日本は4試合すべてでボール支配率で相手を下回った。アメリカ戦は26パーセント。最も低かったのは初戦のスペイン戦で、24パーセントだった。 「守備に追われてみんながきつい中でパスを出したり、一枚(相手を)かわしたりする中で、呼吸が合わなかったり、きつい中でパスがずれることがありました」と、田中は振り返っている。 決定的なパスで多くの決定機を演出してきた司令塔の長谷川も、今大会は守備に奔走。帰国後の取材では、冷静な口調の中に危機感を漂わせた。 「ピンチの数を減らすためにも、ボールを持つ時間を作らないといけないと思います。(今大会は)10%も力を出せていない感覚です。守備に追われる場面が多く、攻撃は何もできなかった」 ダブルボランチを組む長野風花とともに黒子として中盤を支え、守備面で大きく貢献した一方、真骨頂とも言えるスルーパスやサイドチェンジは影を潜めた。 勝つために足りなかったもう一つの要素は、やはりゴール。アメリカの15本に対して、日本も12本のシュートを放った。明暗を分けた1点の差を「決定力不足」などと結論づけるのは簡単だが、長谷川は異なる課題を指摘する。 「もっと崩して、ゴールエリアに入るシーンを作ることができると思います。アメリカは試合中、『日本にクロスを上げられてもOK』という守備をしていて、外が空いているのに、自分たちが攻め急いでクロスを上げていた感覚がありました。その判断は(周りの)声かけ一つでも変わるし、細かく状況判断できれば、もっといいチャンスが作れたと思います」 流麗なパスサッカーで世界を制したワールドカップから13年。興行的にも戦術的にも各国の女子サッカーが発展している中で、ボールを保持し、ゴールを奪う難易度は上がった。その中で、スペインやアメリカとの差は一朝一夕で埋まるものではないと思うが、長谷川の冷静な分析から想像するに、絶望的な差でもなさそうだ。 2度のワールドカップと東京五輪に出場した25歳の南萌華は、その実感をこんな言葉に凝縮させている。 「これまでで一番、ベスト8の壁を越えられる可能性を感じた大会でした。チームとしても個人としても成長ができている自信もついたので、現役の間に、絶対にこの壁を越えたいと思いました」
【関連記事】
- [インタビュー]なでしこジャパンの小柄なアタッカーがマンチェスター・シティで司令塔になるまで。長谷川唯が培った“考える力”
- [インタビュー]なでしこJの18歳コンビ・谷川萌々子と古賀塔子がドイツとオランダの名門クラブへ。前例少ない10代での海外挑戦の背景とは?
- [インタビュー]浦和の記録づくめのシーズンを牽引。WEリーグの“赤い稲妻”清家貴子の飛躍の源「スピードに技術を上乗せできた」
- [インタビュー]チェルシー・浜野まいかが日本人初のWSL王者に。女子サッカー最高峰の名将が授けた“勝者のメンタリティ”とは?
- [インタビュー]岩渕真奈が語る、引退決断までの葛藤。「応援してくれている人たちの期待を裏切るようなプレーをしたくない」