なでしこジャパン、ベスト8突破に届かなかった2つの理由。パリ五輪に見た池田ジャパン3年間の成長の軌跡
池田ジャパン3年間の成長の軌跡
改めて今大会を振り返ると、日本にとって不運だったのは、ケガ人とコンディション不良者が続出したことだ。団長を務めた佐々木則夫女子委員長によると、パリの選手村に入った時から体調を崩す選手が出たという。世界各国から選手が集まる空間で、「コロナ的な風邪が流行ってきちゃったのかなと思う」(同氏)。 その中で生じた戦力の穴は、4名のバックアップメンバーも含めた総力戦でカバーした。 その上で、日本が示した強みの一つが戦術的柔軟性だ。昨夏のワールドカップ以降、実戦の中でセットプレーやシステムのオプションを増やしてきた成果を発揮。初戦のスペイン戦では、これまであまり見せてこなかった4-4-2のシステムで、前半はほぼ互角に近い戦いをした。池田太監督は、選手やスタッフが意見を発信し合える風通しの良い雰囲気を作り上げた。 「相手の変化に対応し、自分たちの強みを出すために自分たちで変化させていく。試合の流れや対戦相手によって(戦い方を)変える反応や理解度、プレーに移す能力は成長した部分だと思います」 個の成長と若い世代の台頭にも、新たな可能性を感じた。特に、最終ラインは百戦錬磨の熊谷を軸に、中堅世代の南や高橋はながその脇を固め、さらに18歳の古賀塔子が台頭。南は、イタリア・セリエAやチャンピオンズリーグで対人プレーを強化してきた成果を随所で発揮した。 「ブラジル相手やアメリカ相手にも1対1で勝てたシーンが多く、手応えを感じました。日本でプレーしていた時は海外の選手に対して怖さもあったんですが、今は『かかって来い』ぐらいの気持ちで試合ができるようになりました」 藤野あおばと浜野まいかの20歳コンビは、4年後にはなでしこの攻撃を牽引する存在になるだろう。同じく19歳の谷川萌々子も、ブラジル戦の逆転ゴールで、中盤の切り札としての価値を揺るぎないものにした。 大会後には、多くの選手が新たに海外に活躍の場を求める。藤野は、イングランドのマンチェスター・シティに3年契約での加入が発表され、田中(ユタ・ロイヤルズ/アメリカ)や清家貴子(ブライトン/イングランド)、山下杏也加(移籍先は未発表)も、新天地での挑戦が始まる。浜野や谷川、古賀のように10代から海外で挑戦するキャリアも、なでしこジャパンを目指す少女たちにとって、一つのロールモデルになりそうだ。 一方、世界トップとの差を縮めていくためには、個の成長だけでは難しい。 「ヨーロッパはネーションズリーグやヨーロッパ予選をやっていて(日程が詰まっているため)、日本は代表の活動期間でヨーロッパのチームと戦える機会が減って、ヨーロッパの中でどんどん強くなっていってしまっている。取り残されないように、代表期間の活動を大事にしたいです」 そう南が吐露したように、強豪国とのマッチメイクのハードルが上がっている現状がある。今大会の結果を受け、3年後のワールドカップ、4年後のロサンゼルス五輪に向けて、日本サッカー協会はどのような強化策を打ち出していくのか。 新生なでしこジャパンは、10月26日の国際親善試合で新たなステージに向け再スタートを切る。 <了>
文=松原渓[REAL SPORTS編集部]
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