偉大な芸術作品で体調が悪化? スタンダール症候群とは
喜びから畏敬の念まで、芸術作品の鑑賞はあらゆる感情を呼び起こす。ときには怒りや落胆など、ネガティブな感情が引き起こされることもある。さらに、芸術の街といわれるような都市を訪れたときには、まれに気分が悪くなったり、精神的に圧倒されたりすることがある。 旅先で経験するそうした状態は、「スタンダール症候群」と呼ばれる。心拍数が増えたり、めまいや失神を起こしたり、不安や意識障害、幻覚に襲われたりすることさえある。 欧州精神医学会(EPA)が2021年、ジャーナル「European Psychiatry」に発表した研究結果はこうした症状について、「奇妙で耽美的なこの病は間違いなく、ルネサンス美術の特別な力を証明している」と述べている。 以下、そのスタンダール症候群の歴史と一般的な症状、発症しやすい人などについて、紹介する。 ■スタンダール症候群とは? スタンダール症候群は、圧倒的な数の芸術作品や文化的体験に直面したときに起こる心因性の症状。現在のところ、各国の医療関係者が信頼に足るガイドラインとして精神疾患の診断に用いる「精神疾患の診断・統計マニュアル(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)」に掲載されているものではない。 だが、EPAは研究の結果として、「世界で最も素晴らしいとされる美術館で名作を鑑賞する旅行者は、それぞれに合ったペースを保つことが必要」だと警告している。 ■発見の経緯 芸術愛好家だったフランス、グルノーブル出身の作家スタンダール(本名:マリ=アンリ・ベール)は1817年、個人的、政治的、そして芸術的な知識を深めることを目的に、欧州の各地を巡る「グランド・ツアー」に出発した。 イタリア・フィレンツェ市が観光関連サービスの一環として運営する公式サイト「Desination Florence」によると、スタンダールは芸術に触れた経験について、旅行中につけていた日記に次のようにつづっている。 「芸術がもたらす天上にいるような感覚と熱烈な感情がぶつかり合うほどに興奮し、(フィレンツェにある)サンタ・クローチェ聖堂を出るときには、心臓の鼓動が早くなり、活力は干上がり、私は落下するのを恐れながら歩いていた」