年末RIZIN最強女ギャビと戦う神取忍はプロレスラーの怖さを見せられるのか
昨年一度は決まったギャビ戦は肋骨の骨折によって流れ、代役出場となった盟友の堀田祐美子が犠牲になった。だが、8月には怪我も完治、そこからタイでムエタイ、国内では、“世界のTK”こと高阪剛のジムへ通ってMMAの基礎技術を学び、ギャビのバックボーンにある柔術を知るため、日本ブラジリアン柔術連盟の会長で、伝説のヒクソン・グレイシーと戦った男、中井祐樹のジムでも教えを請うた。 「いろんなアドバイスをもらったが今は言えない」 打倒ギャビの作戦については一貫して口をつぐむ。 「当然、試合のビデオは見ている。弱点はあるけれど、それは言えない。柔よく剛を制すというが、技があれば力のあるものを倒せる。テコだね。テコの原理があれば、返すことも投げることもできる」 投げるつもり? 「秘密。見てのお楽しみ」 そしてこうも続けた。 「ギャビのメンタルは強くない。勝負はメンタルだからね」 報道陣とのやりとりに秘策の輪郭が浮かぶ。 神取は日本の女子格闘家としても先駆者だった。 L-1という格闘イベントで1995年、1998年と2度、ロシアの192センチ、150キロの巨漢の元柔道家、スベトラーナ・グンダレンコと対戦している。初戦は、あえなく袈裟固めに押し潰され、後にファンの間で議論が起きた再戦では“一応”雪辱を果たしたことになっている。まだ総合の技術が創成期の試合で参考にはならないが、「あの試合で大きな選手とやった経験値はプラスになる。あのときとは戦い方は違うけど」と神取は言う。グルグルと周囲を回っていただけで、倒されてからは何もできなかった1995年の戦いを教訓に具体的なギャビ対策のイメージが、神取の中では出来上がっているのだ。
殴るのか。倒すのか。投げるのか。 右目にできた目のクマは打撃戦に活路を見出そうとしている証拠。まだ総合歴は浅く「メンタルが強くない」と見るギャビに恐怖感を与えるのは間違いなく打撃だろう。公開練習で見せた顔面へ突き上げるようなパンチは、ギャビのインサイドへもぐりこむためのフェイントなのかもしれない。 絶対不利の戦いに神取が求めるのは“大晦日の格闘聖地”さいたまスーパーアリーナを一瞬でも沸かせる一矢だ。勝ち負けは別にして、殴る、倒す、投げるの、どれかで、ギャビを「あっ」と言わせることができれば、それだけでプロレスラーとしての存在価値はある。 「ギャビが有利? 何がおこるかわからない。倒しにいく、挑戦していくという夢をメッセージとして伝えたい。やるからには自信がある。自信がなければ、この試合に臨まない。足も2本、手も2本、同じ人間。倒せないはずがない」 恐怖心を取り除き、自らを洗脳するかのように語った。 しかし、神取も53歳である。体格だけでなくスタミナやパワーもギャビにはとてもかなわない。本来ならギャビを動かして体力を奪いたいが、それも難しい。短期決戦にならざるをえないだろう。それでも、どんな根拠があるのか、「38歳の肉体に戻っている。動ける体になり、本来の精神を呼び戻せた」と、ここでも精神論を掲げた。 “女子プロレス最強男”と言われた神取は、53歳でMMAのリングに立つ理由を問われ、「戦い続けることが自分の中にある。そこに年齢は関係ない。ただ、これはMMAの集大成になるかも」と言った。 昨年の堀田のように何もできないまま、ファンを失望させる茶番試合になるのか、それとも勇気とプロレスラーの存在意義を見せることができるのか。総合の世界は、技術やフィジカルの先鋭化、ファイターのアスリート化がどんどん進んでいるが、その黎明期に我々をドキドキさせてくれたのはプロレスラーの輝きだった。神取は、そのレスラーの眩光を再び放つことができるのか。注目の試合は12月29日に行われる。