【プロ1年目物語】大型補強全盛期の長嶋巨人で1年目からレギュラー奪取! 叩き上げの安打製造機・清水隆行
松井秀喜の成長の原因のひとつ
結果的に1996年の長嶋巨人は松井が自身初のMVPに輝き、ふたりのルーキーがスタメンに定着したチームの世代交代を象徴するシーズンとなった。同年限りで巨人を退団した落合博満は、ルーキー清水の練習量を間近に見て、自著にこう書き記している。 「松井の成長の原因のひとつは清水(清水隆行)の存在だね。あの子は今のジャイアンツには珍しくよく練習しているもの。よくバットを振っているもの。松井と清水は年齢が近いでしょう(清水が1歳上)。その清水が入ってきて、松井はずいぶん刺激を受けたと思う」(不敗人生 43歳からの挑戦/落合博満・鈴木洋史/小学館) 清水が入団した1990年代中盤以降の長嶋巨人は、終わりなき大型補強時代へと突入していた。落合博満、広澤克実、清原和博、江藤智ら各チームの四番バッターを毎年のようにFA獲得。逆指名ドラフトでも、高橋由伸、上原浩治、二岡智宏、阿部慎之助ら大学球界のトッププレーヤーたちがこぞって巨人のユニフォームを着る一極集中の異常な時代だった。 松井や高橋といった同世代のスター選手が顔を揃え、補強組の四番候補で溢れていたからこそ、「プロでどう生き残るか?」を真剣に考えた清水は一番や二番打者の役割に活路を見出すのだ。背番号9に代わった2002年には、原辰徳新監督に一番で起用されると球団最多記録の年間191安打を放つ。大型補強のあおりで開幕時はベンチに座ろうと、シーズン中盤には気がつけば清水がレギュラーを奪取しているケースも多々あった。 巨人で13年、西武で1年。通算14年間のプロ生活で積み重ねたヒットは1428本。その男のプロ生活は、大物揃いの長嶋巨人において、ドラフト3位からの下克上でレギュラーを掴んだ、あの1年から始まったのである。 文=中溝康隆 写真=BBM
週刊ベースボール