【プロ1年目物語】大型補強全盛期の長嶋巨人で1年目からレギュラー奪取! 叩き上げの安打製造機・清水隆行
生存競争の厳しさを感じて
対左投手では先発を外れることもあったが、6月30日の広島戦で7号、8号を連発した清水は、大卒と高卒の違いはあれど憧れの王の1年目の本塁打数を早くも超えた。巨人戦中継が地上波テレビで毎晩視聴率20%以上をマークする90年代の社会背景もあり、メディアはノーマークのルーキーの快進撃をこぞって報じるようになる。週べでも度々特集記事を組んでいるが、試合に出続けながら、連日の早出特打ちとウエート・トレを休むことなく続ける清水のタフさには、球団のコンディショニング・コーチも驚きを隠さない。 「運動量が増えているのに、体重は変わらない。食欲も落ちてないというしね。この世界は食べるのも仕事。食べないヤツはレギュラーを張れない。清水は本当にしぶといよ」(週刊ベースボール1996年6月3日号) そして、7月9日の広島戦では、札幌の地で巨人逆転Vの「メークドラマ」のきっかけとのちに語られることになる、9者連続安打の9人目としてライト前にヒットを放った。とは言っても、当時の清水には、この試合が分岐点だなんて考える余裕はなかったという。以降、チームは最大11.5ゲーム差あった首位広島を猛追していく。8月15日横浜戦、同点で迎えた9回表にしぶとく決勝打。8月30日の中日戦でも延長12回表に試合を決めるタイムリー三塁打と背番号35の新人らしからぬ勝負強さは長嶋巨人の欠かせないピースとなっていく。規定打席にはわずかに足りないものの打率3割をキープする清水と、「一番三塁」に定着した同僚の仁志との新人王争いも話題に。だが、ふたりはその渦中の週べの対談企画で、憧れの巨人での生存競争の厳しさを口にしている。
仁志「自分じゃ、レギュラーだなんて思ってないね。まだ、2日続けてタコ(ノーヒット)ったらまずいって考えるし……。自分自身の中で、そんなプレッシャーとの勝負もある。1日タコると、次の日は1本でも打たないと外される、という危機感みたいなものかな」 清水「僕としたらまだ、打てなかったらいつ、下(二軍)に行けって言われるか分からない、という不安がありますね。だから、打率がどうこうよりも、1本ヒットが出たら、これでもうちょっと上(一軍)に置いてもらえるかな、という気持ちが強いです」(週刊ベースボール1996年9月16日号) 長嶋巨人は129試合目のナゴヤ球場で優勝を決め、清水は107試合(307打席)で84安打を放ち、打率.293、11本塁打、38打点、9盗塁、OPS.821という好成績を残した。イチロー擁するオリックスとの日本シリーズではわずか1安打に終わり、新人王こそ仁志に譲ったが、球団からの評価は高く初めての契約更改で年俸は推定960万円から一挙に3倍増の2800万円へ。さらに私生活でも大学時代から付き合っていた女性と3年間の交際を実らせ結婚。巨人の主力選手たちが集うオロナミンCのCM出演も決まった。