中国で相次ぐ“無差別”殺傷事件 困窮にあえぐ人々の声…「社会安全」にほころび
2024年、中国では広東省で男が車で多くの人をはね35人が死亡するなど、多くの“無差別”殺傷事件が起きた。背景に、経済低迷による社会の不満の高まりを指摘する声は多い。では、経済を支える働き手たちの置かれた状況はどうなっているのか。労働者たちの声を聞いた。 (NNN上海支局 渡辺容代)
■全財産は「スマホ1つ」…社会を覆う閉塞感
上海に隣接する工業都市・江蘇省昆山市。製造業を中心に栄え、日系企業も多く進出している地域だ。ここに職業仲介業者が軒を連ねる場所がある。周辺にはネットカフェや安宿などもあり、全国から職を求めて人々が集まってくる。 地元の河南省に妻と子を残し働きに来たという37歳の男性。一晩30元(約600円)ほどの宿に泊まりながら仕事を探しているが、見つからないまますでに1週間以上が過ぎた。 「月に7000元(約14万円)稼げれば…と思うけど、そんな仕事は見つからない。あっても短期の仕事で、2~3か月働くと給与を下げられる。やり口が汚すぎるよ」 これから職業仲介業者に向かうという別の男性。目的はスマートフォンの充電のためだという。寒空の下、薄手のジャケットの下に首元がすり切れたTシャツがのぞく。 「財産は、これ(スマホ)1つだ」 中国ではモバイル決済が一般的で、スマホがなければ買い物にも事欠く、いわば“命綱”だ。荷物をほとんど持たず、路上で寝泊まりしながら日雇いの仕事を探す男性のような人は少なくない。 多くの労働者は職探しの状況がコロナ禍の後に悪化したと話す。賃金に見合った仕事が見つからないばかりか、雇い主の経営状況が悪化し、契約通りに雇用が守られないケースも続出しているという。すぐそばには富裕層が住むマンションも乱立している。日が暮れるにつれ、明かりがともり始めた高層マンションの窓の向こうとの間に、圧倒的な格差が存在していると感じた。
■消される市民の声 中国当局が覆い隠す「不都合」とは
中国では24年、無差別に住民や子どもを狙ったとみられる事件が相次いだ。11月には広東省珠海市で男が車で多くの人をはね、35人が死亡した。その後、1週間も経たないうちに江蘇省無錫市の職業専門学校で男が学生らを切り付け、8人が亡くなった。当局はそれぞれの事件の詳細を明らかにしていないため、詳しい動機などは分かっていないが、経済の低迷により社会に不満が高まっていることが背景にあるとの指摘は多い。 そうした中、中国のSNSでは、労働者による「抗議デモ」の投稿が相次いでいる。アメリカの人権団体「フリーダムハウス」によると、24年7月から9月にかけて確認された中国の「抗議デモ」は937件で、前年の同時期より3割近く増えた。また抗議デモのうち4割は労働者によるものだったという。しかし、中国当局はこうした投稿を検閲し、政権批判につながる恐れがあるとみなせば削除しているとみられている。