中国で相次ぐ“無差別”殺傷事件 困窮にあえぐ人々の声…「社会安全」にほころび
11月中旬、広東省にある家具メーカーで行われた抗議の映像では、30人以上の人々が家具の販売店で、従業員とみられる女性が「最低なボス、給料を返してくれ!」と叫び声を上げていた。動画の投稿者によると、この会社では全ての従業員分あわせて150万元(約3000万円)の給与が支払われていないという。 私たちは実情を確認するため、現地に向かった。すると、わずか2週間ほどの間に家具メーカーの販売店は撤退していて、店が入っていたビルの1階は、わずかに店名が書かれた看板が残されるのみになっていた。働いていた従業員に連絡を取ると、給与はいまだ支払われていないという。 同じ広東省にある電子部品の製造工場でも、従業員による抗議活動の様子がSNSに投稿されていた。900人の従業員を抱えるというこの工場では、数か月分の給与が支払われていないという。 工場から出てきた従業員に話を聞くことができた。この工場に勤めながら一家を養っているという男性。給与が支払われない中、親戚や友人などから借金を重ねながら勤め続けているという。仕事を辞めても再就職のあてはなく、政府機関に相談しても「無駄だ」と肩を落とす。 「9月から3か月分の給料をもらっていない。このままもらえなければ、私はもうおしまいだ」 中国経済が専門の同志社大学の厳善平教授は、中国では職業や立場による格差が大きく、社会保障など格差を是正する仕組みも不十分だと指摘する。 「医療保険制度や年金制度も、中国では住む場所や職業によって大きな格差がある。制度的に手厚く守られた特権階級がある一方、最低限の保障しか受けられない状況にあえぐ人々もいる。こういった格差が大きければ当然、人々の不平、不満は蓄積する」
■住民が“監視”対象か 統制強化で再発は防げる?
「社会の安全」を特に重視してきた習近平政権。政府批判を封じ、国民への統制を強めてきた中で連続して起きたのが“無差別殺傷”事件だ。広東省の事件が起きた直後には、習主席自ら事件の再発防止を指示するなど危機感がうかがえる。 広東省ではさっそく失業者や人間関係に不和を抱える人など「社会に不満を持つ人」を探し出し、管理するよう指示が出ているという。現場周辺では事件後、行政の末端組織から暮らしぶりの聞き取り調査を受けたという住民の証言も得た。この住民は「自分の経済状況がよくないから調査を受けたのかな」と苦笑いしていたが、さらに統制が強まることが懸念されている。 事件の取材中には、警察当局などによる尾行や行く先々での職務質問、カメラを傘で遮るといった取材妨害も受けた。深刻な実態を外国メディアに報じられることを警戒しているのだろう。中国国内のメディアからは景気のいい話ばかりが聞こえてくるが、人々の実感からはますます遠のくばかりだ。再発防止に必要なのは、事件の背景を明らかにし、国民の不満に向き合うことではないだろうか。