がん治療の進化で大きな課題も 新たに発症する病気と高額費用にどう向き合うか
5年間の治療費は数百万円
日本乳癌学会が、乳がん経験者におこなったアンケート調査によると、回答者の65.7%はがんの治療費の負担で生活上マイナスの影響を受けていることがわかった。同学会理事のがん研有明病院副院長・乳腺センター長・大野真司医師は言う。 「国民皆保険制度という公費で医療費の多くをカバーする制度があっても、がん治療費の負担は患者さんの暮らしに影響を与えている。しかも、世帯収入が少ないほど重い負担感があるという傾向がみられました」
長期にわたる治療費の負担と失業が重なり、経済的な苦しさを訴える女性がいる。 東京都内在住の由美さん(52、仮名)は夫と共働きで、障害のある子どもを育てながら親の介護も担う。2016年に乳がんと診断されてからは、自身もケアが必要な体になった。リンパ節への転移が14カ所あり、抗がん剤、放射線治療、ホルモン療法の「フルセット」の治療を続けてきた。 最初の抗がん剤は薬価が10万円強で、月に2回使うと3割負担でも7万円強。高額療養費制度の適用にはやや届かない額だった。数カ月後、抗がん剤を3種類組み合わせる治療に切り替わると、高額療養費の上限額を毎月超えた。 はじめの5年間で払った治療費は数百万円。生活が厳しくなった。現在は後発のホルモン治療薬を使い高額療養費の上限は超えなくなったが、主治医からは、乳がんの再発や転移を予防するホルモン治療を、あと5年は継続すると言われている。 由美さんはがん治療の副作用で仕事に制限がかかり減収に。一方、がんの治療のほか、自由診療扱いの「リンパ浮腫」の治療も受け、こちらは一度の受診で7000円以上かかる。最近はカフェでお茶をするといった少しのぜいたくも我慢しているという。 由美さんは抗がん剤を3種類組み合わせる治療を受けた期間に、高額療養費制度の詳細を知って驚いた。直近12カ月間で3回以上この制度を利用した場合、「多数回該当」といって、さらに安くなる仕組みがあった。 「最初の薬と次の薬と、使う順番を逆にしていたら、高額療養費の上限額が減る時期が前倒しになり、10万円ちかく減額できたはず。担当の先生は、逆の順番で使っても治療効果はそれほど変わらなかっただろうと。それなら費用のことも気にかけていただきたかったです」