がん治療の進化で大きな課題も 新たに発症する病気と高額費用にどう向き合うか
5年生存率が高い乳がん
乳がんはがんの中でも5年生存率が高く、治療費の長期的な負担については以前から課題となっていた。乳がん専門医の野口瑛美・国立がん研究センター先進医療・費用対効果評価室室長は、こう指摘する。 「抗がん剤や分子標的薬が高額になり、費用負担が長期に及びます。昨今、医師は薬の効果や副作用のほか、治療費の情報も患者さんに伝えなければ後々トラブルになりかねません。中には治療費が払いきれず、途中で治療が続けられなくなる方もいます」 治療費を捻出しながらがんを生き抜くために必要なのは、収入=仕事だろう。けれども、冒頭の清水さんのように治療の副作用で働けなくなるケースも多い。ただ、清水さんは会社に在籍中に参加した患者向けの講演会で得た情報を手がかりに対処もしていた。
知られていないがん患者の障害年金
清水さんは会社を退職する少し前、二つある障害年金、「障害厚生年金」と「障害基礎年金」を申請していた。障害年金制度では初診日(清水さんは、会社の健康診断で異常を指摘された時点)が起点になり、その時点で厚生年金に加入していたためだ。それぞれ2級の認定を受けた。2人の「子の加算」(障害年金を受給している人の児童扶養手当)を合わせて毎月十数万円が支給されている。 現在はほぼ無職で、毎月の半分以上を副作用と闘う清水さんにとって、障害年金は命綱だと言う。 「もし支給がなかったら、働かなければならず、いま効いている治療薬を選択できなかったと思う。別の効かない薬であれば、命が長く続かなくなるかもしれない」 がんで障害年金を受給している人は多くない。2019年度の障害年金業務統計によると、がんを含む病気の区分で申請して支給が決定された人の割合は、支給件数全体のわずか3.7%だ。その理由について、社会保険労務士事務所「Cancer Work-Life Balance」の清水公一代表は、制度がわかりにくいためと分析している。 「がん患者に障害年金の制度が認知されておらず、医師も障害年金の診断書を書くことに慣れていない。また、認定の基準もわかりづらい。基準を満たしていても、症状が悪化して患者が請求する気力も体力もなくなってしまうこともあります」