がん治療の進化で大きな課題も 新たに発症する病気と高額費用にどう向き合うか
日本腫瘍循環器学会理事長の小室一成医師は、がんがあると血栓ができやすいと指摘する。 「がんそのものが血を固まりやすくする物質を出しています。さらに、その状態で抗がん剤治療をすると、使う薬によっては血管を傷めて、ますます血栓ができやすくなるんです」 リスクがあるのは血栓だけではない。 小室医師が受け持った大腸がんの80代の女性患者は、抗がん剤治療を始めてから心不全を発症した。もともとこの女性は大腸がんを手術した2年後に転移が見つかり、毒性の強い抗がん剤は使わずに新しいタイプの分子標的薬による治療をおこなっていた。1年後、女性は突然息苦しさを訴え、検査の結果、心臓のポンプ機能が落ち心不全になっているとわかった。心臓病の既往歴はなかった。 小室医師は、がんで誘発される病気で最も警戒しなければならないのが心不全だと言う。 「従来の抗がん剤の多くは心臓に悪い影響を及ぼすことが知られていましたが、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬など新しい抗がん剤にもそうした毒性があります。がん細胞をコントロールできても、心不全で亡くなっては元も子もありません。併発する病気を悪化させず、がん治療を完遂できるように支援するのが私たち循環器医の新たな役割です」
女性は1カ月にわたる心不全の治療で改善したものの、抗がん剤治療を中断したため、がんが大きくなった。抗がん剤の量を減らして治療を再開したところ、心不全を再発し、がん治療を中断。数カ月後、女性はがんと心不全の両方が悪化し、亡くなった。 早くから心臓の異常を見つけられていれば、心臓を保護しつつがん治療も続けることができたはずだと小室医師は言う。 「分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬等は昔の化学療法に比べて副作用が少ないので高齢者にも抗がん剤の治療をする機会が増えました。ただ、高齢者は心不全など循環器の病気になりやすいので、がんの治療医と循環器の医師との早期からの連携が欠かせません」 二つ目の課題、「治療費」はどうか。