がん治療の進化で大きな課題も 新たに発症する病気と高額費用にどう向き合うか
清水代表は、自らがステージ4という肺がん患者だ。社員時代から退職後にかけての1年10カ月間、障害年金を受給した。受給額は長男(9)の加算を入れて年間約200万円。治療費や生活費の不足分などに充てたという。 死を覚悟したのは2016年末。がん細胞が脳の髄膜に転移する「がん性髄膜炎」になった。極めて予後が悪いとされ、「人生終わりかな」と思っていた。だが、ちょうどオプジーボが肺がんで保険適用され、担当医は使うことを提案。脳転移の患者に効くというエビデンスはなかったが、わらにもすがる思いで1年間投薬したところ、治療が奏功し、その後の放射線治療を経て肺がんもがん性髄膜炎も寛解した。 「肺がんのステージ4はその当時は5年生存率が約5%といわれ、命がいつ終わるかもわからない中での抗がん剤治療で、普段通りの生活という希望を持つのは難しかった。先行きの不安も大きい。そんな時に障害年金が支給されて、精神的にすごく楽になりました」 清水代表は障害年金制度を、がんの患者会で知った。そのため、2017年末に退職した後に社労士の資格を取得し、現在はがん患者への就労支援や制度の啓発をしている。 「障害年金は申請が必要ですが、支給されれば闘病生活が楽になる可能性はある。治療が長引くほど、仕事やお金のこともがん患者のQOL(生活の質)に大きく関係してきます」
北里大学病院の佐々木医師は、がんを克服、あるいは、がんとともに生きる長期生存者が増えてきているいま、「がんサバイバーシップ」の理解が重要だと説く。がんサバイバーシップとは、がんの診断を受けた人たちがその後に抱える社会生活上の問題を、本人や周囲の人々、社会全体が協力して乗り越えていくという考えだ。 「これからのがん闘病には、新しい生活上の戦略が必要になってきます」 がん治療医と循環器治療医が協力する医療現場、闘病中の患者への助言や支援をするがんサバイバー。新しい抗がん剤やバイオ製剤の登場は、がんを生き抜く日々のあり方を変えつつある。
--- 古川雅子(ふるかわ・まさこ) ノンフィクションライター。栃木県出身。上智大学文学部卒業。「いのち」に向き合う人々をテーマとし、病や障がいを抱える当事者、医療・介護の従事者、科学と社会の接点で活躍するイノベーターたちの姿を追う。著書に『きょうだいリスク』(社会学者・平山亮との共著、朝日新書)https://www.masakofurukawa.com