がん治療の進化で大きな課題も 新たに発症する病気と高額費用にどう向き合うか
心臓病と治療費用という課題
がん患者の5年生存率が向上している。国立がん研究センターなどの研究班によると、最近診断された患者群と約15年前に診断された患者群とを比べ、がんの転移がある「中期」では前立腺がんが28.2ポイント、肺がんは15.1ポイントも増えた。肺がんの「早期」では17.7ポイント増だった。
背景に抗がん剤の進展がある。近年は効き目が持続する新しい治療薬が開発され、生存率はさらに向上すると予測されている。 一方、「その先」の問題も患者にのしかかっている。一つは、がんを起因とする心臓や血管への病気のリスク。もう一つは長期にまたがる治療費の負担だ。 北里大学病院集学的がん診療センター長の佐々木治一郎医師は言う。 「分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬などの登場で、がん患者の生存率はもっと伸びるでしょう。ただ、治療の過程で心臓病や脳梗塞を発症したりします。治療費の負担で生活苦に陥ることもあります。がん治療の『その先』をどうフォローアップしていくかが課題になっています」
課題の一つ、「心臓や血管への病気のリスク」とはどういうものなのだろうか。
抗がん剤治療後、脳梗塞や心不全に
北陸地方に住む智史さん(50、仮名)は2018年夏、肺がんでステージ4Bと告知を受け、抗がん剤治療を始めた。半年後、風呂上がりにパジャマをうまく着られず、言葉にも詰まったため、妻が病院に連絡し、緊急入院した。脳内の血管に血栓が詰まる脳梗塞と診断された。すぐに血栓を溶かす薬の点滴治療を受けた。 智史さんの妻は、がんと脳梗塞のリスクを抱える心境をこう話す。 「緊急入院の翌日、夫は自分の名前も書けなくなっていました。脳梗塞と聞いて『がんじゃなくて、そっち?』と足をすくわれた思いでした。言葉を発せるようになってから抗がん剤治療を開始し、いまはその抗がん剤も徐々に効かなくなってきた。脳梗塞の再発も怖い。がんはじわじわと悪くなっていくイメージですが、脳梗塞は一発でガツンと悪くなりますから」