大学院卒で派遣社員だった女性が直面した男女の賃金格差。結婚した夫からの「奴隷扱い」の悲劇
経済力がないから自立ができない
親族からのセクシャルハラスメント発言について、夫も含め、誰も理解していない状況に絶望した咲絵さんでしたが、経済力がないために、自立ができない。夫のもとで生活するしかなかったとか。 「辛かったですが、仕方がないと思いました。九州赴任は2年で終わり、東京本社の勤務が決まったのが5年前。そのときに、大学院時代の指導教授から連絡があり、今の会社の入社試験を受けてくれと頼まれたのです」 実は咲絵さんは大学と大学院の研究で結果を出していました。ただ、就活当時その研究分野は注目をされていませんでしたた。加えて、院卒女性が企業から敬遠されていたので、派遣社員として働くしか道はなかったとか。 「時代は変わっています。そこで、入社試験を受けたら合格。これは夫のアメリカ赴任に同行し、英語ができるようになっていたことも大きかったと思います。38歳で初めて正社員になりました」 咲絵さんが仕事をすることを夫は反対しつつも、これまで通りの「家事ルール」を守る限り黙認するようになったそうです。ちなみにそのルールとは、 ●夫が家に帰るまでに帰宅して風呂を沸かしておかねばならない。 ●夫は自由に行動し、食事を家でするかどうかの報告義務はない。 ●しかし、咲絵さんは夫が食べるかどうかわからないまま、夕飯の支度を一汁三菜で整えなければいけない。 等々……それ以外にも「え、それは奴隷扱いでは?」と思うような細かなルールがありました。 それを咲絵さんは必死に守っているのです。
「今後一生、おまえの子供は欲しくない」
咲絵さんは会社で評価され、役員の打診までされるようになりました。しかし夫は咲絵さんに「おまえが役員になったら会社が倒産する」「おまえに仕事は無理だ」「おまえに社会性はない」などと発言する姿勢は続けていました。 「夫には、書類を隠されたり、通勤服を捨てられたり、勤務する上での妨害をされていましたが、やっぱり別れたくないんです。15年も一緒に過ごしてきましたし、また独身になるのは辛い。だから、関係を改善するためにも、子供が欲しいと思いました。今の会社はリモートができるので、先進治療を受けて妊娠・出産する最後のチャンスだと感じ、夫に不妊治療の再開を提案したのです」 すると、「今後一生、おまえの子供は欲しくない」と豪語。そこに咲絵さんは異変を感じます。それまで、夫はときどき「子供も考えないとな~」と話していたからです。 「夫は親から子供を急かされているのに、この態度はおかしい。1ヵ月前に夫のバッグを見てみると、ポーチの中に勃起不全の改善薬があったのです」 咲絵さんと夫は、もう5年以上セックスをしておらず、する予定もない。目の前が真っ暗になったと言います。 「さらに、バッグの中には女性の筆跡で“お誕生日、おめでとう! 愛してる! ”というメッセージカードもあったのです。夫には付き合っている女性がいることは間違いない。本当に、本当に怖いのですが、調べて欲しいのです」 ◇経済DVは、女性から経済力を奪い、自立できなくすることによって自分の言いなりにコントロールする暴力だ。それ以外にも夫はまるで咲絵さんを奴隷のように扱っている。そして咲絵さんがそれでもついてきたのは、理系の研究職で大学院を出ても就職先がなかったことや、派遣会社での男女の賃金格差などで、自立することに絶望していることも大きい理由だと思われる。社会での差別が、家庭内差別に鈍感にさせてしまったと言ってもいいだろう。 幸いなことに、咲絵さんは「これはおかしい」と思って調査を依頼にきた。それが「現実に向き合う」第一歩となるはずだ。 では夫の浮気の現状は、そして咲絵さんの決断は。詳しくは後編「夫の帰宅前に風呂を沸かし、毎日一汁三菜」共働き妻を奴隷のように扱う43歳エリートの本音」にてお伝えする。
山村 佳子(探偵事務所代表)