大学院卒で派遣社員だった女性が直面した男女の賃金格差。結婚した夫からの「奴隷扱い」の悲劇
入籍直後から「おまえ」呼び
しかし、区役所に婚姻届を出したあと、夫は咲絵さんを「おまえ」と呼ぶように。名前で呼んで欲しいと伝えると、「僕の父は母をそう呼んでいる。“さきちゃん”は5文字だけど、“おまえ”は3文字、効率がいいでしょ?」と言われたそう。 さらに、夫から「いつ、仕事を辞めるの?」と言われます。当時、咲絵さんは夫に惚れ込んでいたので、すぐに退職。派遣の同僚の中には、寿退職をする咲絵さんを羨望の目で見ていた人も多かったそうです。 「よく、“女性が仕事を続けることは幸せだ”と言いますが、私のように未来がない仕事をし続け、正社員からモノのように扱われる底辺の派遣にとっては、寿退社をすることが幸せでした。夫と結婚するときに、もう家賃を払わなくてもいいし、お金の心配をしなくていいと、すごく安心したんです。正社員の夫と結婚すれば、子供も産めるし、毎日肉や卵も食べられる。人並みな生活ができますから」
「36歳でお尻を触ってもらえるなんて、ありがたいよ」
咲絵さんが仕事を辞めた直後に、夫のアメリカ赴任が決まります。咲絵さんは同行することになったそう。 「思えば、あの時期が一番楽しかったです。アメリカって専業主婦の人が意外と多くて、ボランティアや教会で交流があってすごく楽しいんですよ。現地の友達と話をしたくて、必死で英語を学びました」 「持続可能な開発リポート 2024」によると、持続可能な開発目標達成度で、アメリカの順位は46位。18位の日本の方がSDGsの目標達成ができています。中でも教育や医療が発達し、インフラも整備されて清潔な水を使える人がほとんどだというのは大きく評価されるところ。しかし17個の目標の中で、日本は圧倒的に「ジェンダー差」の達成ができていないのです。 「アメリカで8年勤務した後、帰国後2年間は夫の地元九州に赴任。夫の実家と行き来する機会が増えました。そこで分かったことは、夫の実家の強烈な男尊女卑です。家族の集まりがあっても、女性は台所に立って、ひたすら料理を作り続ける。私は30代と若いから、お酌要員になり親戚のおじさんからお尻や胸を触られました」 それについて夫に不満を言うと「36歳でお尻を触ってもらえるなんて、ありがたいよ。おまえが可愛いからだよ」と言われたそうです。 「さらに夫の親戚から、“咲絵さんのケツはデカい。あんたも子供を産まなくちゃ。旦那にもっと可愛がってもらえ”と言われたんです。酔っているとはいえ、すごい発言ですよね。夫は異常に性欲が弱く、不妊治療を考えるタイミングでした。夫は繊細なので、おじさんの発言を受け、“自然妊娠しよう”と数回は頑張ったのですが、結果が出ず……」