進む「農福連携」、農業の雇用創出と障がい者の自立を両立させるアプローチとは
一般企業への新規就労者も出ている。“卒業生”たちは花の木農場を巣立った後もよく遊びにやってくるそうだ。 「大きな車をローンで買ったり、彼女を連れてきたり。楽しそうですね。当然、いろいろな挫折も経験するけど、施設内の守られた環境では得られません。何かあったら力を貸すよとは言っています。辞めてからもそうした安心感があればいいかなと」 50年の歴史を積み重ねてきた白鳩会は、いまや大隅半島、そして鹿児島で欠くことのできない大きな存在になっている。
難易度の高い胡蝶蘭栽培
農福連携の労働形態は、雇用契約を結んで給料をもらう「就労継続支援A型」と、軽作業などの授産的な活動で工賃を得る「就労継続支援B型」が多い。だが特例子会社で働く人たちもいる。特例子会社とは、障がい者の雇用促進と安定を図るべく、事業主が障がい者のために特別な配慮をした子会社のこと。 設立して3年足らずだが、障がい者の高い技術力が評価されている農場が、千葉県我孫子市にある「ポレポレファーム」だ。大手繊維メーカー・帝人の特例子会社、帝人ソレイユが運営する。
ポレポレファームでは約15人の障がい者が社員として働き、年間100種類以上の野菜作りに加えて、食用バラや胡蝶蘭の栽培などをしている。 胡蝶蘭栽培は20年4月からスタート。台湾から空輸した苗を半年間かけて育てる。現在は毎月400株程度を出荷。大手銀行など約70社と取引がある。
胡蝶蘭事業は収益性の高さが魅力的な一方で、その生育には非常に高度なスキルが求められる。同社農業事業部長の升岡圭治さん(59)によると、出荷するまでに大きく10以上の作業工程がある。中でも最初の難関が「仮曲げ」と呼ばれるもの。ある程度伸びた胡蝶蘭の茎を支柱に沿わせて曲げる作業のことだが、茎は少し力を入れただけで簡単に折れてしまう。 「うちの胡蝶蘭は3本立てで3万円なので、1本折ると、『あー、1万円やっちゃった』となります。私も修業中に一日に10本折って、相当落ち込みました」と升岡さんは苦笑する。