進む「農福連携」、農業の雇用創出と障がい者の自立を両立させるアプローチとは
花の木農場では、2021年12月現在で140人の障がい者が農作業などに従事する。中には濱屋さんのように、途中から職員になるケースもある。牛の飼育を担当する壹岐桂久さん(36)もその一人だ。 「牛に触れるのが楽しい。お産も一人で立ち会います。(売られて)牛がいなくなるのは寂しいけど、こないだ競りに出すときに踏まれたんですよ」 壹岐さんはそう話し、苦い表情を浮かべながら足の甲を指さした。
農業と福祉を結びつけるべく、4500カ所以上が取り組む
障がいのある人たちが農業に携われるよう、行政や民間などが支援する取り組みを「農福連携」という。障がい者が生きがいを持ったり、仕事に対するやりがいを見つけたりして、社会参画へのハードルが少しでも下がることを目的とする。 国の施策として農福連携が始まった経緯を、農林水産省農福連携推進室の田村敏明課長補佐はこう説明する。 「07年12月に内閣府で『重点施策実施5か年計画』が策定され、農業法人などで障がい者雇用を進めるようになりました。農業分野では人手不足や高齢化という課題があり、一方、障がい者は就労先が見つからず、自立が難しい状況でした。また、農作業をすると体の調子が良くなるという園芸療法も昔からあるので、農業と福祉を結びつけることになりました」 農水省の調べでは、20年度末時点で、農業法人や障がい者就労施設など全国で4500カ所以上が農福連携に取り組んでいる。農水省も「農山漁村振興交付金」の中で農福連携の補助事業を展開する。 「農福連携に踏み出しにくいという事業者に対して、初期投資の部分を補助することで、少しでも取り組みやすくしていきたいという思いがあります」(田村さん) 農水省のほかにも、厚生労働省が独自の交付金事業を進めている。法務省も障がい者施設などで育てられた野菜を使ったカレーなどを省内の食堂で販売し、売り上げの一部を犯罪者などの社会復帰支援に向けた基金に寄付。各省が一体となって推進しているのが農福連携の特徴だ。 冒頭の花の木農場は、創設から15年で事業の黒字化を実現。また、2019年にはお茶の事業で国際水準の農業生産工程管理「ASIAGAP」の認証を取得した。なぜ花の木農場はこれほどの成果を上げているのか。