ベトナムのスタートアップ最新事情、国内市場に向く“タイムマシン型”
ベトナム政府がスタートアップやイノベーション企業の育成、支援によって、経済のさらなる発展を計画する。 2003年に日本の約100分の1だった名目国内総生産(GDP)は、2023年に約10分の1の4340億ドルに増え、2024年は7%の成長を見込んでいる。人口1億人を超えたベトナムにビジネスチャンスを見いだすスタートアップも次々に生まれている。ベトナムにおけるスタートアップの最新事情や経済状況について、10月上旬に訪問した日本貿易振興機構(JETRO)ハノイ事務所の萩原遼太朗氏と矢島尚貴氏に聞いた。 JETROは「ベトナムのスタートアップは国内マーケット志向で、新しいビジネスモデルや技術を活用することよりも、海外で成功した事業モデルを持ち込む“タイムマシン型”が多い」と指摘する。「先進国のモデルをローカライズしたモデルで、海外志向のスタートアップが少ない」という。人口増加などによる国内の消費者市場拡大もあってか、破壊的イノベーションやブルーオーシャンの追求が不足しているということだろう。 現地ベンチャーキャピタル(VC)のDo Venturesの調査によると、スタートアップへの投資額は2023年に前年比17%減の5億2900万ドル、件数は同9%減の122件だった。JETROはVCの調査データから、ヘルスケアやフィンテック、教育への投資が増加傾向にあるのに対して、小売りや電子決済が減少していると分析する。 投資額は2021年から2年連続で減少するが、4社のユニコーンが育っている。電子決済事業者のOnline Mobile Services Joint Stock Company(M_Service)、ブロックチェーン・ゲームのSkyMavis、オンラインゲームやSNSを手掛けるVNG、電子決済事業者のVNPAYだ。地場のVCも増え、徐々に資金調達がしやすくなりつつあるという。特に南部のホーチミンにVCや投資家が集まっているという。ジェネシア・ベンチャーズや大和企業投資など日系VCも拠点を設けるなど活動を展開する。 日本企業によるベトナムのスタートアップへの出資や買収も活発化している。JETROはいくつかのパターンを紹介する。1つはみずほ銀行によるM_Service、三井住友銀行によるSmartNet、NTTデータによるVietUnionといった電子決済系スタートアップへの大型の投資、買収が目立ったこと。2つ目は、エコシステムの構築。例えば転職サイトのマイナビが不動産や教育、バックオフィス、IT、人事などのスタートアップに出資、買収する。3つ目は協業関係の構築になる。例えば、学研ホールディングスが幼児教育関連情報サイトを運営するKIDDIHUB EDUCATION TECHNOLOGY JOINT STOCK COMPANYと業務提携し、ベトナムでの教育コンテンツの販売に乗り出している。 日本のIT企業がベトナムの位置付けを、オフショアから開発・販売の拠点にする動きもみられる。コストメリットからIT人材の確保や市場成長を期待し始めているということだろう。いち早く取り組んだのが、行動認識AIを開発するアジラだ。日本法人は営業やマーケティング、ベトナム法人は研究開発とした。オンライン決済のOpn Paymentsや、製造業向け受発注プラットフォームを展開するCADDIなどもハノイやホーチミンに開発拠点を設置する。