ベトナムのスタートアップ最新事情、国内市場に向く“タイムマシン型”
ベトナム投資のメリット、デメリットは 日本企業はベトナムでの事業を拡大する方向にある。JETROが2023年夏に調査した「海外進出日系企業実態調査(2023年)」などによると、回答した在ベトナム日系企業の56.7%が今後1~2年で事業を拡大するとする。東南アジア諸国連合(ASEAN)の主要6カ国の中で、第1位だった。また、海外事業を展開する日本企業(本社側)のうち、ベトナムでの事業拡大を検討する割合は24.9%と、米国に次ぐ2位だった。「加工輸出と国内市場の成長を見込んでいる」とJETROはみる。 JETROは、「豊富なIT人材」「成長市場」「起業家の多様性」などがベトナムの強みだとみている。特にハノイなど北部には、ハノイ工科大学など理系大学があり、ITエンジニアを数多く輩出する。FPTソフトウエアなど有力IT企業も集結しており、スピンオフするケースも少なくないという。一方、ベトナムはベトナム語やベトナムの商習慣に守られており、海外勢にとっては障壁になる。提出する書類はベトナム語など、日本企業が単独で進出し、市場開拓や協業をするのは難しいこともあるという。 先の実態調査からも、投資環境のメリットの上位は「市場規模/成長性」(70.2%)、「安定した政治・社会情勢」(58.7%)、「人件費の安さ」(58.3%)などになる。一方、デメリットは「行政手続きの煩雑さ」(62.4%)、「人件費の高騰」(62.1%)、「法制度の未整備・不透明な運用」(59.1%)などを挙げる。人件費は年5~6%増えているという。 また、デメリットの7位に「電力インフラの未整備」(35.3%)がある。2023年夏には北部で電力不足に陥り、製造業の操業やデータセンターなどにも影響を及ぼしたという。 田中 克己 IT産業ジャーナリスト 日経BP社で日経コンピュータ副編集長、日経ウォッチャーIBM版編集長、日経システムプロバイダ編集長などを歴任、2010年1月からフリーのITジャーナリスト。2004年度から2009年度まで専修大学兼任講師(情報産業)。12年10月からITビジネス研究会代表幹事も務める。35年にわたりIT産業の動向をウォッチし、主な著書は「IT産業崩壊の危機」「IT産業再生の針路」(日経BP社)、「ニッポンのIT企業」(ITmedia、電子書籍)、「2020年 ITがひろげる未来の可能性」(日経BPコンサルティング、監修)。