なぜ大型犬は早死にで、がんにもなりやすいのか 実は動物全般とは逆の現象が起こっている
短命の原因はがん以外にも
ところが種を超えてみると、この関連性は崩壊する。 細胞ががんにかかる確率がもし一定なら、体が大きくなって細胞の数が増えればがんになる確率も高くなるはずだ。しかし、動物全般ではそうなってはいない。 この矛盾は「ピートのパラドックス」と呼ばれている。このパラドックスが当てはまるのは、動物がより大きな体を持つように進化した場合だけだろうと、ダ・シルバ氏は仮説を立てている。 「イヌの体が大きくなるように品種改良されてきたのは、ここ200年ほどと、比較的最近のことです。ですから、がんに対する防御力まで進化させる時間が十分になかったのではないでしょうか」 ダ・シルバ氏は、イヌの品種の古さとがんのリスクとの間に関連性がないかを調べているが、バセンジーのようないわゆる古代犬種の遺伝情報が少ないため、研究には限界があるという。 ウーファー氏は、がんのリスクが高いことだけが大型犬の短命の原因ではないだろうと考えている。イヌの体の大きさが犬種によって異なるのは、多くの小さな遺伝子の変化によるものだ。そしてその約15%を占めるのが、「インスリン様成長因子1(IGF1)」と呼ばれる遺伝子の変化だ。 IGF1を抑制されたマウスは長生きすることが、2018年に医学誌「Journal of Molecular Endocrinology」に発表された論文で示されている。「大型犬の場合も、IGF1の過剰な働きが速い老化に関係していると考えられるのではないでしょうか」 どんな病気にかかろうとも、大型犬はその大きさのゆえに治療が難しいと、ディッツラー氏は言う。デイビスさんも、ゼウスを受け入れてくれる獣医を探すだけでも大変だったと話す。 「ゼウスほど大きなイヌを扱った経験のある医者はほぼいませんでした。治療に使えたのは、実際のところほとんどがイヌではなくウマのために作られたものでした」
文=RJ Mackenzie/訳=荒井ハンナ