【毎日書評】ストレスフルな環境から抜け出す「ストア哲学」が与えてくれる心穏やかに生きるヒント
環境問題や(差別などを含む)人々の意識、あるいは経済問題など、さまざまな意味において困難な社会を私たちは生きています。『心穏やかに生きる哲学 ストア派に学ぶストレスフルな時代を生きる考え方』(ブリジッド・ディレイニー 著、鶴見紀子 訳、ディスカヴァー・トゥエンティワン)の著者が本書の冒頭で、「なんて生きづらい世の中でしょう!」と嘆いているのも、そういう意味では当然のことだといえそうです。 しかし著者はそんななか、ストア哲学の教えの恩恵にあずかっていることを認めてもいます。紀元前3世紀に、古代ギリシャの哲学者であるゼノンによって生み出された哲学。 微妙な状況に置かれたときにストア哲学を活用するようになってから、それが自分自身や世界全体を理解する方法として有効であることを学んだというのです。そればかりか、ストア哲学は、人生を丸ごと、ゆりかごから墓場までカバーしてくれるのだそう。 ストア哲学は紀元前155年頃にアテナイからローマへと伝わり、ローマの若いエリート層の間で人気になりました。 ローマでは堅苦しい慣習と階層制度のせいで、ストア哲学を学ぶのは男性に限定されていました。 しかしローマ・ストア派のムソニウス・ルフスは、女性もストア哲学を教わることを主張し、五感に加えて論理的な思考力と、道徳を理解して反応できる力を持つ者なら、誰でも哲学を学ぶべきだと述べました。(「はじめに」より) 著者によればもともとのストア派は、人生を楽しみ、他者を愛し、共同体の一員として生きていたのだといいます。彼らは喜びをできるだけ大きくし、否定的な感情はなるべく小さくすることを望んでいたのだとか。 つまりストア哲学は、生活をあらゆる面から支え、一生役に立つ考え方を提供してくれたということのようです。 きょうは、そうしたストア哲学の考え方を解説した本書の第2部「人生とその不条理について」のなかから、仕事におけるさまざまな状況にも生かせそうな、「他人と比べて落ち込まない」という項目に焦点を当ててみたいと思います。