【56歳 原田知世さんインタビュー】年齢を重ね「こうしなきゃ」はもういらない
――歌詞の中には、大人の実感のこもった部分も。『インディゴブルー』の〈いつでもあなた自分のことより/私の幸せ祈ってくれた〉※1、『ひねもすLOVE』の〈パーフェクトな人生はないの/宝物は足元にある/遠くまで旅をして気づけたの〉※2という一節などには、心を掴まれました。 原田 『インディゴ~』は自分にとってのふるさとを感じながら、『ひねもす~』は歌いながら私自身も「本当にそうだ」と、救われるような気がしていました(笑)。心の大事な場所にある記憶、そうしたものをわかっている人のための歌だなと。子どもの頃にはわかりませんでしたが、大人になればなるほど、そういう切なさがしみてきますよね。 ※1 「インディゴブルー」 作詞:高橋久美子 作曲:伊藤ゴロー ※2 「ひねもすLOVE」作詞:高橋久美子 作曲:伊藤ゴロー ――俳優と並行しての音楽活動は来年で43年。最初に歌い始めた頃、これほど長く歌うことを予感されていましたか? 原田 いえ、まったく……でも人生は、出会いやタイミングによって変わっていくものなんでしょうね。ここ10年以上、レコーディングもライブもほぼ同じメンバーで行っていますが、毎作違うものにチャレンジして鮮度を保ちながら信頼感がどんどん増している環境には、すごく安心感があって。俳優として現場へ行くときも、ありのままの自分で自信を持って行けるのは、音楽活動を続けていたからだろうなと思います。
――俳優としての佇まいにも通じますが、自分らしくありながら、はじめて歌ったときのような透明感を保てるのはなぜでしょう? 原田 「自分らしさって何だろう?」と、いつも思っているんです。実は、いまだに分からなくて。でも、それでいいのかな、とも……誰かが「あなたのいいところはここ」と思ってくれたらうれしいけれど、それを意識しすぎると、逆に動けなくなってしまいますよね。ですから、そのときどきに起こることをキャッチしつつ、任せるところは人に任せる。年齢を重ねれば重ねるほど「こうしなきゃ」はなし、自由でいいやって。 ――12月17日には恵比寿The Garden Hallで開催されるクリスマスイベント「L’ULTIMO BACIO Anno 24」に参加し、アルバムリリース記念のスペシャルライブを開催されます。 原田 ライブには長く応援していただいている方も、俳優としての作品を観て関心を持ってくださった若いお客さまもいらっしゃいます。皆さんがライブのついでにイルミネーションを眺めたり、おいしいものを食べに行ったりしながら、つながっていく……そんなふうに、誰かの人生の傍に私の音楽があるのだとしたら、それはとても幸せなことだと思います。 今度のライブでは、しばらく歌っていなかった昔の歌も歌ってみようと思っていて、過去の音源を聞き返したりもしています。そうしていると、昔はダメだなぁと思っていた部分が、「あれ? 意外といいな」と思ったりもするんですよね。逆に「これはよかった!」と思っていたものが、案外、そうでもなかったりして、自分の記憶ってけっこう怪しいものなんだなと(笑)。 ――今振り返るから、気づくこともあると。 原田 そうですね。ですから、嫌だった、ダメだったと思っていたことでも、時が経ってから再確認してみると「大丈夫だった!」となるのかもしれないから……。〈宝物は足元にある〉というように、自分のよさをあらためて見つけることも大事だなと。それに気づかせてくれるのが、私にとっては歌なのだと思います。
ミニ・アルバム『カリン』
雲の切れ間の青空と澄んだ空気を感じながら、どこまでも歩いていく――極上の季節を映した珠玉の6曲を収録。伊藤ゴローの総合プロデュースのもと、川谷絵音、藤原さくら、soraya(壷阪健登+石川紅奈)のフレッシュな才能、高野寛、高橋久美子らベテラン勢との充実のコラボレーションが実現。ジャケットは人気イラストレーター・塩川いづみによる描き下ろし。初回限定版(スリーヴケース仕様+ミニフォトブック付)¥3,520・通常盤¥2,860(ともに税込、11月27日発売)Verve/Universal Music 撮影/藤澤由加 ヘア&メイク・スタイリング/藤川智美 (Figue) 取材・文/大谷道子