「あの子、ちょっと変わってるよね」と、陰で言われていた小学生。中学で「本格的な登校拒否」に。救ってくれたコトとは?
青天の霹靂、娘は塾に行っていなかった
診断がついてひと安心したものの、新たな問題が浮上してきました。 中学1年生の夏休み、愛梨さんは塾の夏期講習に通っていたのですが、後に、後半は全く出席していなかったことが分かったのです。 「夏期講習だけでなく、その後も9月中旬までずっとサボっていたそうです。塾の先生から『全然来ていませんが、ご存知ですか』と言われて、気が動転しました。毎日、時間通りに家を出て行って、夜は決まった時間に帰ってきたのですが、その間何をしていたのか。夜はどこにいたのだろうと心配になりました。本人に聞くと、駅ビルをうろうろしていたそうです。」 話を聞いてみると、勉強に嫌気がさしたとか塾の人間関係に問題があるというわけではなく、愛梨さんはある問題を抱えていたことが分かりました。
【専門医】岡田俊先生のここがポイント!
発達障害は、自閉スペクトラム症にしても注意欠如多動症(ADHD)にしても、男の子のほうが女の子に比べて多く認められます。これはおそらく発達障害の病態と何らかの関係があるものと思われますが、はっきりとした理由はわかっていません。しかし、同時に注意しなければならないのは、男の子に比べて女の子のほうが症状が目立ちにくく、過少評価されやすということです。 学童期の子どもを見ると、女の子のほうが男の子に比べて、言葉で表現する力やコミュニケーションケーションの能力の面で長けている子が多い、と感じることが多いものです。それは発達障害のある子でも同じです。自閉スペクトラム症があり、相手の行っていることや背景にある気持ちが手に取るように分からなくても、その場の雰囲気にあわせてうなずいたり、微笑んだりという風にして、その場を繕っていることがあります。 また、ADHDのある男の子は不注意だけではなく、落ち着きのなさや衝動的な行動が多く見られます。この場合、本人の困りごとであることはいうまでもありませんが、本人以上に周囲が心配したり、対応に困ってしまう症状として相談に至ることが少なくありません。 しかし、女の子の場合には、多動-衝動性は目立たず、不注意症状が中心なのです。不注意は、周囲が困るというよりも、本人の能力や努力が不足している、と捉えられがちです。男の子に比べて女の子のほうが症状が目立ちにくい、からといって、男の子に比べて女の子のほうが困難に直面することが少ないわけではありません。 女の子の世界のほうが、小学校の高学年から中学生の頃には、かなり難しい対人関係のなかで友人関係が繰り広げられていることが多いですし、そのなかでは同調圧力がある一方、仲間はずれ、さらには特定の誰かをスケープゴートにしてしまうということがあり得るのです。わずかな発達障害特性のある子の場合には、小学校の中学年までは特に大きな支障はなかったのだけれども、高学年ぐらいから困難に直面する、ということがしばしばあります。 学校でつらいことは、具体的には同級生のAさんかもしれませんし、B先生と折り合いが悪い場合もあります。授業時間は問題はないのだけれども休み時間が苦痛だということもあるでしょう。静かな授業なら問題ないけれども、学級崩壊しているような騒がしい教室だと苦痛であったり、楽器の集団練習のように、各自がばらばらに演奏しているような環境では、自分の出している楽器の音を聞き分けることもできませんし、その教室自体が地獄という場合もあります。 しかし、発達障害のあるお子さんの場合には、特定の人、時間、場面というわけではなく、学校そのものの安心・安全感が損なわれがちなのです。そのつらさを表現するのも得意ではありませんので、周囲が気づいたときには、すでにもう無理の限界を超えていて、学校に行けない状況になっていることもあります。「シャッターを下ろす」のは、もう限界を超えたときですから、その前に助けなければなりません。 他の生徒に「愛梨ちゃんは表情が顔に出にくい」「考えないと動けない」と説明するのは、それが正しい説明であってもベストではないように思います。なぜなら「ちょっと変わっている」ことを詳細に説明しているだけで、他の生徒がその先生の発言をどのように受け止めるのか、他の生徒たちが愛梨さんと対等の友人関係を築いていくのかが定かでないからです。 繊細な子もいれば鈍感な子もいるでしょうし、すぐに困ってしまう子もいれば直ちに判断して行動できる子もいます。愛梨さんが困惑しているのであれば、困惑しないように説明してあげるように促すことが大切ですし、しっかりと考えた上で行動する子もいるわけですから、クラスの中での様々な意見をきちんと整理した上で、誰もが納得して動けることが大切でしょう。こういった配慮は愛梨さんのためだけにするわけではありません。同じように困惑を抱えているクラスメイトもいるでしょうし、そうしてクラス全体のことを考えてみんなが動くことが思いやりの育みにもなります。 ▶つづきの【後編】『「えっ。塾に出かけていたのに、ずっと出席していなかった⁉」成績は右肩下がりに。行かなかった理由を問い詰めると、ショッキングな答えが』では、愛梨さんが抱えていた「ある問題」についてお伝えします。 【岡田 俊先生 プロフィール】 国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所知的・発達障害研究部部長/奈良県立医科大学精神医学講座教授 1997年京都大学医学部卒業。同附属病院精神科神経科に入局。関連病院での勤務を経て、同大学院博士課程(精神医学)に入学。京都大学医学部附属病院精神科神経科(児童外来担当)、デイケア診療部、京都大学大学院医学研究科精神医学講座講師を経て、2011年より名古屋大学医学部附属病院親と子どもの心療科講師、2013年より准教授、2020年より国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所知的・発達障害研究部部長、2023年より奈良県立医科大学精神医学講座教授。
ライター 渡辺 陽