約7億年前の全球凍結「スターティアン氷期」はなぜ起きた? その謎に迫る研究
地球はその歴史の中で、表面全体が氷河に覆われる「全球凍結(スノーボールアース)」が何度か起こったと推定されています。しかし、なぜ全球凍結が起きたのか、またどのように “解凍” されたのかについてのメカニズムはほとんど分かっていません。 今日の宇宙画像 約7億年前に起こったとされる全球凍結レベルの極端な氷河期「スターティアン氷期」の発生原因を、地質記録とシミュレーションによって調査したシドニー大学のAdriana Dutkiewicz氏などの研究チームは、火山からの二酸化炭素放出量が少なくて岩石の風化による二酸化炭素の吸収が多かったために、大気中の二酸化炭素濃度が現在の半分以下まで減少したことが原因であると推定した研究成果を発表しました。興味深いことに、この状況は遠い未来に地球で起こる状況と似ています。
■赤道すら凍りつく「全球凍結」の謎
初期の人類やマンモスがいた時代、地球の平均気温は現在よりも低く、南北の極地やその周辺では氷河が発達していました。この時代を指す「氷期(氷河期)」という言葉は聞き馴染みのある言葉でしょう。 しかし、地球の誕生から現在までという極めて長い時間スケールで見てみると、さらに激しい氷期が何度かあったことが分かっています。人類が経験したことのある氷期では、氷床の領域は緯度にしてせいぜい40~60度の範囲を覆う程度ですが、最も激しい氷期では赤道さえも分厚い氷床に覆われたと考えられています。この極端な氷期は「全球凍結」または「スノーボールアース」と呼ばれます。 全球凍結は当初懐疑的に見る見方が大勢でしたが、現在では発生自体はほぼ疑いようがないと見られており、議論の主軸は発生回数や規模にシフトしている状況です。ただし、地質記録という間接的な証拠に頼る研究手法であることから、全球凍結が起きた原因や、全球凍結が終わる “解凍” の理由など、メカニズムについてはほとんど理解されていません。
■約7億年前の全球凍結「スターティアン氷期」について研究
Dutkiewicz氏らの研究チームは、今から約7億1700万年前~6億6100万年前にかけて起こったとされている「スターティアン氷期」について、その発生原因を調査しました。スターティアン氷期は全球凍結の中でも最も規模が激しかったと考えられている氷期の1つであり、約5700万年間持続したという期間の長さも注目されています。 スターティアン氷期は他の全球凍結と比べて原因を比較的特定しやすいと考えられます。まず、他のいくつかの全球凍結は発生自体が疑われるほど地質記録が不足しています。また、スターティアン氷期よりも新しい時代の氷期の場合、植物の地上への進出など生物の影響を無視できなくなります。特に植物は光合成のプロセスを通して温室効果ガスである二酸化炭素を吸収するため地球環境に影響を与えますが、生物の影響を推定することは不確定要素が多くなるため極めて困難です。 一方で、スターティアン氷期の前後の時代の地上には、植物を含めあらゆる生物がまだ進出していないと考えられています。このため、スターティアン氷期の発生や解除の原因は純粋に地学的現象のみを考慮すればよいことになります。このことは生物の関与を推定するよりもずっと易しいことを意味します。 Dutkiewicz氏らは地質記録を元に大陸移動に関するモデルを作成し、スターティアン氷期の前後における大陸の配置や海の深さ、そこから推定される火山活動の規模など、気温に関係するいくつかの因子を計算しました。この時代はちょうど、地球のほぼ全ての大陸が集合してできた「ロディニア大陸」が分裂を開始した時期に当たると考えられており、プレートテクトニクスの状況と地球表面の構造が大きく変化した時期であると考えられています。