なぜ『源氏物語』は主人公が「源氏」なのか? 藤原氏が排斥した「源氏の怨霊」を鎮魂するためだった?
大河ドラマ「光る君へ」で注目を浴びている紫式部と『源氏物語』だが、なぜ彼女は、「源氏」を主人公にしたのだろうか? 一説によれば、藤原氏が排斥した源氏の祟りを怖れ、その霊を慰めるために書かれたものだった」と言われる。いわゆる「源氏鎮魂説」であるが、本当のことなのだろうか? ■『源氏物語』に、道長はどのように関与していたのか? いうまでもなく『源氏物語』とは、藤原摂関家が絶大な勢力を誇った時代に書かれた物語である。著者は、もちろん紫式部。藤原北家良門流・藤原為時の長女(香子か)である。 どのような経緯でこの物語を書き始めたのか定かではないが、藤原北家御堂流・道長の長女・彰子に女房として仕えながら物語を書き進めたことは、紛れもない事実である。 貴重な紙を提供するなど、パトロンとして彼女を支えていた道長が、目的はともあれ、その出来上がりを楽しみにしていたということも、おそらく間違いのないことだろう。つまり、作者ばかりか、支援者さえ藤原氏であった。 それにもかかわらず、主人公は光源氏。その名を見ても明らかなように、こちらは、皇室から臣籍降下した源氏姓の人物である。源氏の御曹司が主役となって男女の機微を演じるとともに、源氏自体が栄華を極めていく過程を克明に記した物語だ。言い換えれば、藤原氏の手による源氏の物語ということになるが、それってなんだか、変! 腑に落ちないと感じるのは、筆者だけではないだろう。藤原氏の手による物語なら、藤原氏を主人公にした方が良さそうに思える。それにもかかわらず、式部はそうしなかった。なぜだろうか? 紫式部がこの物語を手がけ始める当初より道長が絡んでいたと見られることもあるが、それが本当だとすれば、藤原氏を主人公にしたくなる方が自然だろう。あの手この手を使って盛んに他氏排斥を行っていた藤原氏にとって、源氏もまた排除すべき氏族の一つであったとすれば、その源氏を主人公にした物語を書かせるはずもない。 それなのに…なぜ? 理解に苦しむのだ。