世界のバスメーカーが狙う新興国のBEVバス市場! 中国が圧倒的な勢いをもつなかで欧州&韓国……そして日本はどうする?
ジャカルタの象徴になりつつあるBRT
筆者は新型コロナウイルスが爆発的に感染拡大し、気軽に海外へ行けなかった時期を除けば、ここ15年ほどは年に1度、自動車ショーの取材でインドネシアのジャカルタを訪れている。インドネシアでは現在、ジャワ島にある首都ジャカルタから、カリマンタン島のカリマンタン州に「ヌサンタラ」と名付けられた新首都へ2045年までに完全に首都移転すべく建設工事が進められている。ジャカルタ市への一極集中を避けるといった理由で首都移転を進めているのである。そのジャカルタは、首都の完全移転のタイミングまでに、ジョコ・ウィドド大統領がインドネシアの先進国入りを表明している。 【写真】インドネシアを駆けるBEVバスたち 筆者が訪れはじめたころでも、インドネシア中心部には近代的な高層ビルやショッピングモールなどもあったが、その眼下には三輪タクシーや露店がひしめき合うといった、「新興国あるある」的な雑多な風景が広がっていたが、2018年にインドネシアで「第18回アジア競技大会」が開催されると、メインストリートから露店が排除され、三輪タクシーの走行できる道路が制限されるなど、急速な近代化が進んだ。 そのような近代化の進んだジャカルタを象徴する乗り物としては、トランスジャカルタが運行しているBRT(バス高速輸送システム)がある。コロナ禍に入る直前に、一部区間でインドネシア初となる地下鉄が開業しているのだが、営業区間がまだ限定的で、実用性というよりは「初めての地下鉄」というアトラクションのような存在となっており、ジャカルタの新しい観光スポットと化しているのが現状。 BRTといっても部分的に一般車両用道路を走るので、渋滞に巻き込まれたりするが、基本的には整備された専用道路を走り、鉄道のような自動改札を抜けた先のプラットフォーム(いわゆるバス停?)から乗降することになっている。
BYDもインドネシアにBRTタイプのBEVバスを導入予定
新型コロナウイルスの感染が落ち着き、2022年に久しぶりにジャカルタを訪れてみると、BRTの駅(バス停)のなかで、乗降客数の多いところの一部が多層構造に改築され、上層階にコンビニエンスストアや展望コーナーが設けられるところも出てきた。筆者はこの工事を見ていて、「いよいよBRTもBEV(バッテリー電気自動車)化される、その準備かな」と思っていたのだが、駅(バス停)の整備だけで終わっていた。ただ、車両更新(ICE[内燃機関]車)が進んでいるようには見えなかったので、BEVバス導入はそれでも近いと考えていた。 2024年7月にジャカルタ近郊で開催された「GIIAS(ガイキンド・インドネシア国際オート・ショー)2024」の会場内をまわっていると、商用BEVをまとめて展示しているブースがあった。そこにはBEVトラックのほかに、さまざまなサイズのBEV路線バスが展示されていた。そのなかで目に留まったのがBRTタイプのBEV路線バスであった。 車内を興味深く見ていると、英語の話せる係員が声をかけてきたので、このバスのメーカーを聞くと、「中国のゾントンだよ」と教えてくれた。ゾントンとは、中国・山東省にある「中通客車(客車はバスの意味)」というバスメーカーとなる。ちなみにゾントンのICE車両の連節タイプバスがインドネシアで初めてBRTに導入され、いまも走っている。しかし、導入当初からその品質に疑問を呈する声も多く聞かれていた。実際に筆者も、当該車両に乗っているときに、中開き式の乗降扉が「バタンバタン」とバラバラに開閉するといった不調状態なところを目撃している。 ゾントン製は一般BEV路線バスでも運行されているが、ほかにも一般BEV路線バスではBYDオート(比亜迪汽車)やSAG(ゴールデンドラゴン/金龍客車)といった中国系BEV路線バスが街なかを走っている。ジャカルタ市内で路線バスを実際に運行する3事業者のうちのひとつに話を聞くと、すでに来年、BYD製のBRTバス車両を導入予定とのことなので、ICE車からBEVとなるなかで、BRT車両の中国メーカー車比率が高まっていくことになりそうだ。 ちなみに前述したショー会場でもゾントン製のBRT路線対応のBEV路線バスは2025年デビュー予想としていた。 欧州系ICE車両のBRT(ダイムラー、スカニア、ボルボ)も走っているのだが、恐らく欧州系でBEVバスとなると、現状では中国勢に価格面で勝てる見込みは薄いといえるだろう。「ダイムラーでは、日本市場も含め、バスの価格を大幅に引き下げる世界的な新しい動きを展開していきますので、ダイムラーも含め新興国での中国メーカーBEVバスの動きをこのまま黙って見ているということはないでしょう」とは事情通。 日系メーカーも日本国内でBEV路線バスの発売を最近始めている。規格の問題もあって国内の車両をそのまま海外で販売するということは厳しい。韓国ヒョンデはすでにインドネシアでBEVバスシャシーの販売を進めている。日系バスメーカーも今後、活発な動きを見せてもらえると筆者はおおいに期待しているところである。
小林敦志