食べ過ぎる、寝過ぎる…実は“うつ病”と違う「冬季うつ」かも? 精神科医が見分け方と受診目安を解説
寒い時期にネット上で「冬季うつ」という言葉をよく見掛けます。これは気分が落ち込む病気といわれていますが、うつ病とは何が違うのでしょうか。冬季うつの主な原因や治療法、受診の目安などについて、医療法人社団ユーアイエメリー会(埼玉県久喜市)理事長で、精神科医の鈴木枝里子さんに聞きました。 【画像】「えっ…!」これが冬季うつ&うつ病の違いです
女性は冬季うつになりやすい
Q.そもそも、冬季うつとはどのような病気なのでしょうか。症状や原因、なりやすい人について、教えてください。 鈴木さん「冬季うつ(季節性情動障害:Seasonal Affective Disorder,SAD)とは、特に冬の時期に抑うつ症状が現れる病気です。 医学的に認められた病気であり、精神疾患の診断基準を定めた『DSM-5』と呼ばれる文献では、『うつ病の季節パターン』として分類されています。ただし、通常のうつ病とは異なり、季節変動が明確で、特に冬の期間に限定される点が特徴です。春や夏に症状が改善すること、2年連続で同じ季節にうつ状態となったエピソードがあることが診断の大きなポイントです。 主な症状としては、気分の落ち込みやエネルギー不足、過眠、過食(特に炭水化物の摂取欲求が増える)、体重増加、社会的ひきこもりなどが挙げられます。原因は完全には解明されていませんが、主に次の要素が関係していると考えられています」 ■日照時間の減少 冬季の光の不足により、脳内の気分を調整する物質である「セロトニン」が減少し、抑うつ状態が引き起こされます。 ■メラトニンの過剰分泌 暗い環境では睡眠ホルモンのメラトニンが多く分泌され、眠気やだるさが増します。 ■体内時計の乱れ 日照不足が生体リズムを乱し、抑うつにつながります。 冬季うつになりやすい人として、女性のほか、北欧や北海道など日照時間が短い地域に住んでいる人、自分や家族がうつ病になったことがある人、日照不足に敏感な人などが挙げられます。 Q.では、冬季うつとうつ病は何が違うのでしょうか。 鈴木さん「冬季うつと通常のうつ病には、次のような違いがあります」 (1)季節性 先述のように、冬季うつは特定の季節、主に冬にのみ症状が出るのに対し、通常のうつ病は季節に関係なく発症します。 (2)症状の傾向 冬季うつは過眠や過食、体重増加が特徴的ですが、通常のうつ病は不眠や食欲不振になることが多いです。 (3)原因 冬季うつは光不足や体内リズムの乱れが主な原因と考えられているのに対し、通常のうつ病の原因はストレスや遺伝的要因、脳内化学物質の不均衡など、多岐にわたります。 Q.では、冬季うつの治療法について教えてください。春になれば自然に改善するとのことですが、放置しても問題はないのでしょうか。 鈴木さん「冬季うつは春になれば自然に治ることもありますが、治療を行わないと日常生活に支障が出ることが多く、重症化すると翌年以降も繰り返すリスクがあります。冬季うつの治療法は次のようなものがあります」 (1)光療法(ライトセラピー) 朝に治療用の専用ライトを使い、1万ルクスの光を30分ほど浴びる治療法で、多くの患者に効果が見られます。 (2)薬物療法 抗うつ薬(特にSSRI)を使用することがあります。 (3)生活習慣の改善 日中にできるだけ日光を浴びる、運動する、規則正しい生活を送ることが推奨されます。 (4)心理療法 認知行動療法(CBT)が有効といわれています。 Q.冬季うつとみられる症状が出た場合、受診の目安はありますか。 鈴木さん「『仕事や家事が手につかないなど、日常生活に支障が出る』『2週間以上抑うつ症状が続く』『自分で症状をコントロールできない』のような状態の場合は医療機関を受診することをお勧めします。特に自殺念慮がある場合は即受診が必要です。 冬季うつは治療可能な病気です。『冬だから仕方ない』と思わず、早めに専門医に相談してください」
オトナンサー編集部