「土産買うお客増える見通しが…」店舗移転も「経営に痛手」 開業遅れ、遠のくリニアのまちづくり ”空白期間”に地域の受け止め複雑
長野県飯田市、巨費投じる駅前整備計画見直し
JR東海がリニア中央新幹線東京・品川―名古屋間の2027年開業断念を発表して1カ月余。この間、長野県駅(仮称、長野県飯田市上郷飯沼・座光寺)の工期延長の可能性や、県駅に接続する高架橋の完成時期が31年とされるなど県内工区の遅れも相次ぎ表面化した。飯田市は91億円を投じる県駅前の広場整備計画やスケジュール見直しを迫られ、地元が期待する企業進出や土地取引の動きも鈍い。開業延期を「猶予期間」と捉え、まちづくりを仕切り直す必要がある―との声も出ている。 (葉山大則) 【図】飯田市のリニア駅前の整備イメージ
後悔はないが…
「リニア開業でお客さんが増える見通しだった。延期は残念」。飯田市の老舗菓子店「船橋屋」の原将人社長(41)は話す。 市内で2店舗を運営する船橋屋。県駅へのアクセス改善を図る県の国道153号拡幅改良工事の影響で、同市上郷飯沼にあった店舗を同市座光寺の153号沿いに移し、県駅着工直前の2022年11月から営業する。新店舗は県駅から153号経由で1キロも離れておらず、リニアの利用客が土産物購入に立ち寄ることを期待した。原社長は漏らす。「出店に後悔はないが、開業効果は確実に後ろ倒しになる。経営的には痛手だ」
見えてこない民間の動き
県駅建設中の同市上郷飯沼・座光寺周辺では、道路改良や新設工事に伴う既存店舗の建て替えや移転が発生する一方、リニア開業を見据えた新たな企業進出や出店の動きはほとんどみられない。 市内の不動産取引に詳しい県不動産鑑定士協会リニア新幹線情報管理特別委員長の寺沢秀文さん(70)=下伊那郡松川町=は「リニアは以前から開業時期が不透明化し、もともと動きは鈍かった」と指摘する。24年の市内の公示地価は、前年から継続調査する9地点で下落か横ばい。寺沢さんによると、県駅に近い同市上郷飯沼の住宅地は8年連続で横ばいだ。北陸新幹線沿線の開発状況から「新駅効果を期待した民間投資は、開業の3年ほど前から動く傾向がある」とし、「確実な開業時期が見えないと、民間の動きは出てこない」と強調する。