6ヵ月の赤ちゃんは、人どころかサルの顔まで見分けられる!?成長するにつれて行われる<取捨選択>とは
デジタル時代の今、インターネット上では過度に加工された顔があふれています。なぜ、人間は《理想の顔》に取り憑かれるのでしょうか。そのカギとなる「脳の働き」に、大阪大学大学院情報科学研究科で身体・脳・社会の相互作用を研究する中野珠実教授が、最新科学で迫ります。中野先生によると、生後6ヵ月の赤ちゃんは、人の顔どころかサルの顔まで見分けられるそうで――。 【写真】この「猿」を見分けられますか? * * * * * * * ◆赤ちゃんはサルの顔も見分けられる 生まれたばかりの赤ちゃんは、皮質下の生得的な機構により積極的に顔を見つけ出し、そこに目を向けていると推測されます。 その結果、顔に関する視覚情報が大脳皮質にもたくさん入るようになり、その情報をもとに、顔を認識するための神経ネットワークが生後数ヵ月の間に急速に発達すると考えられているのです。 生後5ヵ月頃には、人種による顔の違いや表情を見分けることもできるようになります。 このように、発達に伴い顔の認識能力が高まる一方で、実は失ってしまう能力もあります。それを見つけたのはフランスのオリヴィエ・パスカリスのグループです(*1)。
◆動物の顔の違いは大きな違いがないとわかりづらい 次の図を見てください。 男性2人の顔はまったく別人の顔であることはすぐにわかると思います。一方、2匹のサルの顔は、互いが似ているように見えないでしょうか。 大人の場合、自分と同じ種である人間の顔の識別は、得意中の得意です。目の位置をほんのわずかに変えただけで、まったくの別人に感じるほどです。 一方、人間以外の動物の顔の違いは、よほど大きな違いがないとわかりづらいのです。これは経験が生み出す差なのでしょうか。 それを調べるために、彼らは、サルの顔の写真と人間の顔の写真を使って、顔の個体識別能力を赤ちゃんと大人で比べてみました。 実験のやり方は、まず顔Aを提示し、それを十分な時間見てもらいます。そのあとで、顔Aと顔Bを同時に提示し、どちらを見る時間が長いかを調べるというものです。 一般的に、赤ちゃんも大人も新奇な刺激が与えられると、そちらを見る時間が長くなるので、顔Aと顔Bを見分けることができていたならば、顔Bを見る時間が長くなります。一方、2つの顔を見分けることができていない場合は、顔Aと顔Bを見る時間の間に差がなくなるはずです。 その結果、大人は、人間の顔のAとB(この研究では、西洋人の顔を表示し、参加者も西洋人)は正しく見分けていましたが、サルの顔AとBは見分けられませんでした。 また生後9ヵ月の赤ちゃんも、大人と同じように人間の顔は見分けられましたが、サルの顔は見分けられていませんでした。 ところが、生後6ヵ月の赤ちゃんは、人間の顔だけでなく、サルの顔も見分けることができていたのです。つまり、生後6ヵ月の赤ちゃんは自分と違う種の顔も見分けられるのに、成長するとそれができなくなってしまうのです。