「戦争はドラッグだ…」世界で賛否両論の大ヒット映画が描く「国民国家崩壊」のヤバすぎる真意
評価は真っ二つに
アメリカで2週連続1位を獲得した話題作『シビル・ウォー アメリカ最後の日』が日本でも大ヒットしています。週末動員ランキングで初登場1位を記録しました(10月4日~10月6日興行通信社調べ)。誰もが知っている大スターが出演しておらず、日本ではさほど関心が高くないと思われていただけに予想外のヒットといえるでしょう。 【写真】アメリカでスターバックスの客離れが止まらない…! アメリカ大統領選が迫っていることに加え、2021年の連邦議会議事堂襲撃事件の衝撃や、トランプ暗殺未遂事件に象徴されるアメリカ社会の緊張が、近未来のアメリカの内戦という筋書きに対する興味をかきたてた可能性があると思われます。ところが、その評価をめぐって賛否両論というか、意見が真っ二つに分かれているのです。 主な批判の一つは、本国でも多数の人々が指摘したように、「この映画は、政治的な主張をしようとしているようだが、結局中途半端に終わっている」というものです。つまり、現在のアメリカの分断に全然切り込めてないのではないかという不満です。そういう意味で、この内戦がどのようにして始まり、誰にその責任があるのかについて綿密に練られた背景説明を期待していた観客は肩透かしを食らうかもしれません。 肯定的な意見では、おおむねこのような弁明がなされています。「この映画は、わたしたちの想像力を試すためにわざと背景説明を省いている。どのようなイデオロギーや立場が人を暴力に駆り立てているかが見えないことで、わたしたちを不安にさせ、混乱を体験させようとしている。そしてそれは成功している」と。実際、世界中で起こっている紛争や内戦は、あまりに複雑で特に部外者には理解しがたいものだからです。
「ゾンビ映画」の意匠を借りながら
まず、本作の舞台は、世界を支配する超大国が戦場と化した近未来です。大統領が3期目以上を務めることを禁止した憲法を無視し、FBIを解散させ、国内を爆撃するといった独裁的な振る舞いを続ける大統領(ニック・オファーマン)に対して、19の州が分離独立を表明し内戦が勃発します。テキサス州とカリフォルニア州が同盟を結び、「西部勢力(WF)」と呼ばれる組織を形成。フロリダ州からオクラホマ州にまたがる「フロリダ連合」とともに、政府軍を攻撃し、首都ワシントンD.C.に向けて進軍しているところから物語が始まります。 大都市からはいくつもの黒煙が上がり、高速道路は破壊された車両が散乱し、正規軍ではない民兵や自警団、物陰に潜むスナイパーなどが人々を殺傷しています。いわば無政府状態であり、身勝手な暴力が横行しており、自分で自分の身を守るしかありません。まさに、終末モノ、ゾンビ映画の定番です。 事実、全体主義国家と化したアメリカで全犯罪が一夜だけ合法化される悪夢を描いた『パージ』(2013年、のちにシリーズ化)や、ゾンビに埋め尽くされたアメリカを4人の男女が旅をするホラーコメディ『ゾンビランド』(2009年)、あるいは通信システム喪失後の異変と惨劇を淡々と見せていく『終わらない週末』(2023年)など、多くの映画と似通った世界観を共有している部分があります。 しかし、どうも監督のアレックス・ガーランドは、そのような観客に馴染みのあるジャンル映画の意匠を借りながら、アメリカにおける民主党vs共和党といった明確な対立軸をあえて省くアプローチを取ったのです。そもそも主人公が受賞歴のある有名な戦場カメラマンのリー・スミス(キルスティン・ダンスト)であることからも、ジャーナリストたちの視点から戦場化する超大国を映し出すスタイルを採用したのは間違いなさそうです。 リーは、相棒の記者のジョエル(ヴァグネル・モウラ)に、リーの大先輩である記者のサミー(スティーヴン・ヘンダーソン)と新人の写真家ジェシー(ケイリー・スピーニー)を引き連れて、1年以上メディアの取材に応じていない大統領にインタビューするため、首都入りを目指してバンに乗り込みます。その道中に体験する凄惨な出来事にリーたちはショックを受けますが、と同時に、言い知れぬ感慨を覚えていることも描写されます。