エルメス麻布台ヒルズ店を手がけた建築家のドゥニ・モンテルがその空間とデザインを語る。
2024年2月、日本国内で36番目となる〈エルメス〉のブティック、〈エルメス麻布台ヒルズ店〉がオープンした。内装デザインの随所に見られるこだわりを、全世界のエルメス・ブティックの内装を手がけるRDAIの建築家のドゥニ・モンテルに聞いた。 【フォトギャラリーを見る】 東京の新しいランドマーク、麻布台ヒルズの敷地を貫く通り沿いにはガラス張りのスタンドアローン形式の店舗が立ち並ぶ。その中でもひときわ目を引く、高さ違いのガラスブロックを2個つなげたような形の建物がエルメスの新しいブティックだ。 「ビルの中のテナントではなく、独立した建物としてのエルメスの店舗は、日本では珍しいケースではないでしょうか? ここ麻布台ヒルズは、都内にいくつかある中心街とは趣が異なる特別な場所だと聞いていました。大都会の中にぽっかりと浮かぶ、緑あふれる島のようなエリアで、その中にはオフィスやレジデンス、ホテル、ギャラリー、学校など様々な施設があるという、クリエイティビティに満ちた新しい都市のあり方を提示しています。この場所のストーリーにふさわしい店舗のあり方を考えたとき、まず緑豊かなガーデンと自然につながり、建物の内と外の境が曖昧になるようなイメージを思い浮かべました」(ドゥニ・モンテル)
まず目を引くのはガラス張りのファサードだ。 「建物自体を設計したのは麻布台ヒルズの低層部全体を担った〈ヘザウィック・スタジオ〉ですが、我々はガラスのファサードに少し手を加えました。ガラスの間に福井の工房で作られた手漉き和紙を挟み、透明から乳白色へと変化させています。漉く工程において水を落として水玉模様を表した和紙なので、どの場所も唯一無二の表情を見せます。この和紙のニュアンスによって、昼間は外光を柔らかく拡散して取り入れ、また夜間にはこの店全体がランタンのように美しく光り輝きます」(ドゥニ・モンテル) 和紙は1階のエレベーター付近の壁にも使用されている。店内の随所に自然からのインスピレーションと、日本の職人技が駆使されているのだ。 「すべての壁は角がなく、丸くカーブを描いており、桜材の羽目板や竹を思わせる寄木細工で仕上げています。また黄土色からオレンジ、真紅などのピクセルで表現したカーペットは、日本の紅葉をイメージしたものです。こうしたところに店の外に広がる四季折々の自然との調和を図りました。またテラゾーの床は一部、クラシックなパリの石畳の道を思わせる模様になっています。孔雀が羽を広げるような敷石の並べ方は、日本の伝統的な紋様である「青海波」とも似ているのは嬉しい偶然でした」(ドゥニ・モンテル)