産総研、強誘電体メモリ用に優れた特性を持つ新材料を開発
産業技術総合研究所(産総研)センシングシステム研究センターおよび東京科学大学らの研究チームは4日、強誘電体メモリの駆動電圧を6割削減できる新材料を開発したと発表した。 【画像】理想的な強誘電体は、抗電界値が低く、残留分極値が高いもの メモリとストレージの中間に位置づけられる「ストレージクラスメモリ」において、低消費電力で不揮発性を有する強誘電体メモリの活用が期待されているが、その素材として窒化ガリウム(GaN)にスカンジウム(Sc)を混ぜたGaScNが開発され、有力な候補とされている。 GaScNは安定した結晶であり、耐熱性に優れ、大きな残留分極値(この値が大きければ大きいほど高集積化が可能)を持つこと、簡便な方法で薄膜が制作できるのがメリットだったが、一方で材料内部の分極を反転させるためには大きな電界が必要で、強誘電体メモリとしての動作電圧が高くなってしまう(抗電界値が高い)のが課題だった。 これを克服するためには、Scの濃度を高めるのが効果的だとされているが、高めると今度は結晶性が低下し強誘電性を示さなくなる。これまでの実験では、強誘電性を維持できるSc濃度の上限は44%だったという。 今回研究グループでは、統計学的手法を駆使して作製プロセスを最適化した結果、GaScNの結晶性を保ちつつ、Sc濃度を53%まで高めることに成功。この結果、Sc濃度44%の時と比較して、抗電界値を半分以下のの約1.5MV/平方cmまで低減できた。これにより、メモリ動作に必要な電圧を6割削減できたという。 また、耐久性の指標となる分極反転の繰り返し耐性を評価したところ、10の8乗回の書き込み動作にも耐えることが確認でき、従来の窒化物強誘電体が有する耐性よりも約100倍高い世界最高値を達成したという。 さらに150℃以下での製膜にも成功した。同じく強誘電体メモリの材料として有力視されているHfO2が必要とすると400~600℃以上の高温と比較すると低いため、メモリデバイスの中でメモリセルと演算セルを近接させることが可能。これはAIチップのようにメモリセルと演算セルが近接したほうが消費電力を抑えられるデバイスで有効だとしている。 今後研究チームでは、今後は分極反転のメカニズムの解明、基板や電極との界面の強誘電性への影響などの調査を進める、強誘電体メモリデバイスの製作に向けたGaScNの材料としての特性制御技術を確立。一方で、より一層の薄膜化技術も重要だと考えているという。
PC Watch,劉 尭