朝ドラ『虎に翼』汐見薫はなぜ母・香淑にキレたのか? 戦後の朝鮮半島と日本の状況とは
NHK朝の連続テレビ小説『虎に翼』は、第24週「女三人あれば身代が潰れる?」がスタートした。物語は昭和43年(1968)から44年(1969)にかけて、寅子(演:伊藤沙莉)ら家族の状況や司法の人事が大きく変わっていく様子が描かれた。一方、汐見圭(演:平埜生成)と香淑(演:ハ・ヨンス)の娘である薫(演:池田朱那)は、母・香淑が朝鮮人だったという事実が自分に隠されていたことを知って両親を拒絶する。さて、そもそも当時の日本と朝鮮半島の状況はどのようなものだったのだろうか。 ■戦後の日本と朝鮮戦争 日本の敗戦によって統治下から外れた朝鮮半島では、米ソ両国の対立が続いていた。そして終戦から3年後の昭和23年(1948)8月、ソウルで李承晩が大韓民国の成立を宣言。一方、金日成は9月に朝鮮民主主義人民共和国を成立させた。分離独立となったことで、北緯38度線が事実上の「国境」となる。大韓民国は「北進統一」、朝鮮民主主義人民共和国は「国土完整」を掲げ、相手国を屈服させることを前提とした朝鮮半島統一を目指した。 この流れをうけて、昭和25年(1950)、朝鮮戦争が勃発するのである。米ソの冷戦の一環であり実質的な代理戦争の様相を呈したこの戦争は、昭和28年(1953)7月に休戦に至った。なお、終戦ではなく平和条約等も結ばれていないため、今なお休戦状態である。 さて、日本ではこの朝鮮戦争による朝鮮特需が追い風となって、戦後復興が急速に進んでいった。国内では高度経済成長期に突入し、60年安保闘争を経て昭和39年(1964)には東京五輪も開催されるなど、経済・文化両面で戦後の混乱期を抜け出していく。 そんな戦後20年を経て、昭和40年(1965)6月22日、日本は大韓民国を朝鮮半島唯一の国家として認める「日韓基本条約」とそれに付随する「日韓法的地位協定」(在日韓国人の法的地位を定めたもの)などを結んだ。 これにより、韓国籍申請者には「協定永住資格」が与えられることになり、永住が法的に保証されることになった。これに対し、そもそもこれらの条約は無効であるとしたのが北朝鮮だ。北朝鮮は日朝の国交樹立に否定的だったため、北朝鮮を支持する在日朝鮮人の法的地位はそれまでと変わらず、暫定的に与えられた在留資格に留まった。 この日韓基本条約締結に対して、日韓両国で大きな反対運動が起こった。日本では一部の学生活動家や旧社会党などを中心反対運動が激化し、デモや集会も行われた。『虎に翼』が24週で描く時代背景として、上記のような日本と朝鮮半島の状況を踏まえておく必要があるだろう。 大学生で学生運動に没頭しているという薫にとって、母が朝鮮出身者であったことは自身のアイデンティティの根底を揺るがす事実だったことは間違いない。その衝撃と、両親が今まで自分にそれを隠し通してきたことへの不信感も相まって、彼女は「自分の生まれた国が、自分の血が恥ずかしいって思っていたってこと?」「安全な場所に、加害者側に立って今までずっと見て見ぬふりをしてきたってことじゃない」と両親を糾弾する。 今週はこの薫が物語のキーパーソンになっていきそうだ。これは同時に、国も家族も捨てて日本人の「汐見香子」として生きる覚悟を決めた崔香淑という人間がその事実に再度向き合う物語になるということでもある。『虎に翼』が描いてきた朝鮮人差別や日本と朝鮮の複雑な関係がどう着地するのか、見届けたい。
歴史人編集部