”2050年までにキリスト再臨”を信じる人々がイスラエルを支持する理由とは?
「迫害された者」への共感
アメリカ人がユダヤ人の救済に共感するようになった理由として、ミードは主に以下の四点を挙げている。 第一に、先述の、16世紀に聖書を字義通りに理解するカルヴァン主義から生まれた諸グループがあり、これが現在の米国福音派の源流になっていること。 第二に、17世紀の初期のアメリカ人は、国家として、また個人的にも、迫害の後に約束の地を目指すユダヤ人と、新大陸にキリスト教国家を建てようとしている自分たちを重ね合わせていたということ。 第三に、19世紀になると、ギリシャ人やイタリア人と同様に、苦境に陥った偉大な古代民族を支援するべきだという機運が高まり、リベラルなロマン主義者たちもその幻想を共有したこと。 さらに四点目として、20世紀になると多くのアメリカ人が、ユダヤ人にアメリカではなくイスラエルに移住して欲しいと願ったという、より現実的な理由もある。 旧約聖書の「イスラエルの民」に象徴される「迫害された者への共感」は、英国での迫害を逃れたピューリタンによって建国されたアメリカという国の、国民的アイデンティティの礎として、とりわけ重要だ。この迫害された「イスラエルの民」のイマジネーションは白人のみならず奴隷として連れてこられたアフリカ系アメリカ人にも共有されている。アメリカ独立戦争後の世代に、多数がキリスト教に改宗したアフリカ系アメリカ人たちは、自分たちをエジプトの奴隷として苦しむ「イスラエルの民」であると認識した。彼らは、自分たちを導いてくれるモーセを待ち望み、聖書に記された奴隷の自由を約束するヨベルの年について、熱心に語り合った。 こうした想像の中にある「イスラエルの民」への共感は、現実のイスラエル国家支援に直接結びつかないことも当然あるが、しかし、あまり意識化されない形で、イスラエルやユダヤ人に対する偏見を形成している可能性は否めない。実際アメリカ人だけではなく、日本人にもユダヤ民族に対してロマンティックな「迫害された者への共感」を抱いている者はいて、内村鑑三のような著名な日本人クリスチャンもシオニストだった。筆者が学生時代であった1990年代から2000年初頭にも、レヴィナスやブーバーなどのユダヤ人哲学者の思想は、現実の政治との関係は問われないままに、最も信頼すべき「迫害された者」の思想として読まれていた記憶がある。 ミードが言うように、ユダヤ人が米国や欧州を陰で動かしているという陰謀論が誤りであるのと同様に、ロマンティックな「迫害された者への共感」もまた人々の認識を誤らせる危険がある。実際、こうした共感に基づき暗黙にイスラエルを支持している人たちまで含めるならば、非ユダヤ人シオニストは米国以外にも、特に欧州には相当数いることが予想される。