関西の高校球児が持つ「関東の人間に負けてたまるか」という執念。二人の名将が感じた“東西の文化”の違い
センバツ選考で「東京が不利だと思う」理由
小倉:そうして実力が磨かれていくのであれば、いいことしかないと思います。春のセンバツは大阪が出場する確率が高い私は近畿地区で大阪の高校が選ばれる確率については一つ、思うところがあるんです。それは、「春のセンバツでは、大阪の高校が出場する確率が高い」ということ。秋の近畿大会を例に挙げると、出場する16校のうち大阪と兵庫からは毎年3校が出場できる(京都、滋賀、奈良、和歌山の4府県は隔年で2校、3校の出場となる)。そうなるとまず現在一番強いとされる大阪桐蔭は、大阪府の予選でベスト4までには確実に入れる。仮に決勝で負けてしまっても、3位決定戦で勝てばいい。そうして近畿大会に出場して、一つ勝って準々決勝まで行ければ、センバツ出場校に選ばれる可能性が高くなる。こうした図式が成り立つんです。 前田:たしかに今の大阪桐蔭が大阪府の予選で早々に負ける姿は想像しづらいし、あれだけ優秀な選手がいたらちょっとやそっとじゃ崩れないと思うわな。 小倉:これに対して東京の場合は、東京大会の決勝まで勝ち抜かないと、センバツ出場のチャンスが得られない。そればかりか、決勝でワンサイドの大敗をしてしまうと、センバツ選考の際、「決勝で大きく崩れてしまった」という理由で、他の関東の学校と比較した際に、東京の学校がはじかれてしまう可能性が高い。この点では東京の学校は不利だと思うんですよね。
決勝で負けるにしても“負け方”が問われてくる
前田:「東京も秋の関東大会に出場すれば解決できる問題だろう」という声も上がるが、制度上、そうなっていない以上は、現行のルールに従って戦っていくしかない。その過程でいけば、東京は決勝で負けるにしても“負け方”というのが問われてくる。関東の他の県では県大会の決勝までいけば勝っても負けても関東大会には出場できる権利があるから、控えの投手だったり、野手を起用して経験を積ませることができるけど、東京はいかんせん、そんな事情もあるからそれができないのは痛い。 小倉:難しいのは承知なんですが、東京はセンバツ出場を狙ううえでこうしたハンディがあるというのも、実際に戦っていて感じていましたね。 <談/前田三夫 小倉全由 写真/双葉社> 【前田三夫】 1949年、千葉県生まれ。木更津中央(現・木更津総合)卒業後、帝京大に進学。高校時代は三塁手として活躍するも甲子園の出場経験はなし。大学時代は4年の秋に一塁ベースコーチとしてグラウンドに立っただけで選手としては公式戦出場なし72年、卒業後に帝京野球部監督に就任。78年、第50回センバツで甲子園初出場を果たし、以降、甲子園に春14回、夏12回出場。うち優勝は夏2回、春1回。準優勝は春2回。21年8月に監督を勇退、現在は名誉監督としてチームを支える。 【小倉全由】 1957年、千葉県生まれ。日大三卒業後、日本大に進学。高校では内野手の控えとして甲子園を目指すも、最後の夏は5回戦で敗退。大学在学中に日大三のコーチに就任し、79年に夏の選手権大会に出場。81年、関東一の監督に就任。85年夏の選手権大会でベスト8、87年春のセンバツでは準優勝に導く。88年に退くも92年に復帰、94年夏に再び甲子園へ導いた。97年、母校の監督に就任。2001年夏に全国制覇。10年春のセンバツでは自身2度目の準優勝、11年夏には同じく2度目の優勝を果たした。23年3月に監督を勇退。
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