脅迫メールも送られた「トランスジェンダー本」 “書店に置かない”は「表現の自由」の侵害か?
「中韓ヘイト」とジェンダーに関するヘイトの違い
――『トランスジェンダーになりたい少女たち』を「ヘイト本」と批判する声もありますが、一般的には、「ヘイト本」といえば中国・韓国を対象にしたものを指します。 関口氏:たしかに、一般的には「ヘイト本=中韓ヘイト本」を指します。出版業界でも、「反差別」「反ヘイト」を掲げており中韓ヘイトやレイシズムには敏感であっても、他の種類の差別やヘイトに関する意識が足りない関係者は散見されます。 中韓ヘイト本は新刊の出版がまだ続いてはいますが、刊行は確実に下火になっています。その代わりに、ここ数年ではジェンダーをテーマにしたヘイト本の刊行点数が増えてきました。 ジェンダーに関する本は「科学的根拠」があるかのように標榜していることも多く、またジェンダーに関する差別は人種や国籍に対する差別と比べて「わかりにくい」という問題もあることから、ヘイト本であることに気がつかない場合も多いようです。 また、新刊情報をチェックしていると、関連する法律の改正など政治的な動きが活発になっているタイミングではヘイト本の刊行点数が増える傾向にあることに気づかされます。 ――「わかりにくい」差別やヘイトが含まれる本について、書店としてはどのように対応すべきと考えますか? 関口氏:差別やヘイトには意図的なものだけでなく、「マイクロアグレッション」(※)と呼ばれる悪意のない無自覚なものも存在します。 ※ マイクロアグレッション:意図的か否かにかかわらず、特定の属性・集団に対する偏見や差別に基づいた言動や態度を、相手に対してとること。 どれだけ反差別を意識して作られた本であっても、作者が意識していない対象に対する差別に加担する表現が含まれてしまう可能性は排除できません。 その場合、その本の中になんらかの差別に加担してしまう可能性のある表現があることを書店員が知っているのなら、そのことを明示したPOPをつけるのは、むしろ必要なことだと考えます。 このような観点からも、書店による批評的・批判的なPOPを「表現の自由の侵害だ」としてしまうことは、避けるべきでしょう。
弁護士JP編集部