脅迫メールも送られた「トランスジェンダー本」 “書店に置かない”は「表現の自由」の侵害か?
書店にも「表現の自由」がある
――「内容についてはアメリカでも賛否両論で、科学的根拠を疑う批判もある」「慎重に読むことが期待される」などの内容が記載されたPOPを巻いて販売した書店が批判されました。 関口氏:書店員が批判的なPOPをつけて本を並べることを規制する行為こそ、「表現の自由の侵害」です。 著者や出版社に表現の自由があるのと同様に、書店にもその権利があります。 また、書店員にも、ひとりの人間として「表現の自由」の権利が付与されているはずです。 そもそも、本書に限らず、既に多くの本には書店員の「意見」を反映させたPOPがつけられています。その「意見」が著者や出版社と合致しない場合もあるでしょう。 また、「書評」という媒体であれば批判的な文面で紹介することもあります。手書きPOPは書店員による店頭での書評行為だと考えれば、そのような行為の権利は保障されるべきものだと思います。 全体として、今回の手書きPOPだけがことさらに批判されるのは、非常に恣意的だと考えます。 ――そもそも書店側が「売りたくない」と思っている本が店頭に並べられる、という場合はあるのでしょうか? 関口氏:出版社と書店の間のパワーバランスなど、出版業界における権力の構造についても考える必要があります。 多くの新刊書店では「配本制度」によって、書店が発注していない本も出版社または取り次ぎから納品されるようになっています。 つまり、書店は売る意思のない本であっても、店頭に並べざるを得ない状況にあるのです。 返品することは可能ですが、返品率が高くなると配本条件が厳しくなり、今度は「売りたい」と思って発注した本が入荷しなくなる可能性が高まります。書店の立地によっては、書店側が返品送料を負担することもあるため、「返品すればいい」というわけでもありません。 本書も、配本によって自動的に入荷した書店が多いでしょう。「信条的に売りたくない」または「経営判断的に売れない」と判断した本が強制的に入荷されしまう環境がある以上、その抵抗手段としての店頭に並べる際の書店側のアクションには、しかるべき自由が与えられる必要があると考えます。