日米防衛産業協力・取得・維持整備定期協議(DICAS)に欠かせない「迅速さ」
X(旧:Twitter)でも度々注目を集めているラーム・エマニュエル駐日米国大使は、大使に着任する以前にも、歴代大統領のアドバイザーとして、あるいは政治家として粘り強く政策を推し進める手腕で知られてきた。最近の大きな成果は、米軍の艦艇や航空機の維持整備を日本で行えるよう、両国の政府と軍、そして防衛産業間の連携を後押ししたことだろう。さらに、4月にワシントンで行われた岸田・バイデン首脳会談においては、「日米防衛産業協力・取得・維持整備定期協議(DICAS: Defense Industrial Cooperation, Acquisition and Sustainment)」の設置が決定され、6月9日から11日にかけてその具体的協力案件を話し合うための初回会合が開かれている。
日米が直面している運用上の要求は何か
現在日米の協力案件としては、すでに報じられている日本の民間施設における米軍艦艇・航空機の維持整備や、昨年12月の防衛装備移転三原則の運用指針見直しによって可能となったパトリオット迎撃ミサイルのライセンスバックおよび生産体制の強化に加えて、極超音速滑空体に対処するためのGPI(Glide Phase Interceptor:滑空段階迎撃用誘導弾)の共同開発などがある。もちろん、GPIは両国にとってSM-3ブロック2A以来となる大型の共同開発事業ではある。しかし、その技術的複雑さなどを考慮すると、開発開始から実戦配備まで10年近い期間を要する可能性が高く、完成前に日米が何らかの有事に直面する可能性も否定できない。日米が置かれている安全保障環境の切迫感が日に日に増していることを踏まえれば、DICASには中長期の大型事業だけでなく、自衛隊と米軍が今まさに直面している運用上の要求を迅速に満たすことも期待される。 最も重要なのは、DICASは日米の統合的な運用上の要求に対応すべきという点だ。その手始めとして、DICASは日本の統合幕僚監部(および各幕僚監部)と米インド太平洋軍から、日本および日本周辺での活動に対する差し迫った運用上のニーズを募るべきだろう。具体的には、日米共同での維持整備、ネットワーキング、意思決定支援ツールの開発などが挙げられるだろうが、これらに優先順位をつけ、防衛省内局と国防長官室(OSD)に対し、それぞれの解決策を両国の次期予算に盛り込むようにすることが重要となる。2024年度末までに発足する日本の統合作戦司令部も、この一連のプロセスに貢献しうる。さらに両国は、将来に向けた自衛隊・米軍の態勢整備のため、共通の防衛計画シナリオに基づいた能力評価を共同で実施し、その結果をDICASにフィードバックするサイクルを確立すべきである。この取り組みを通じて、重複または補完性のある有望な分野や、協力プログラムを開始しうる分野を特定することが期待できる。