日米防衛産業協力・取得・維持整備定期協議(DICAS)に欠かせない「迅速さ」
同盟の統合運用をさらに推し進める機会にも
インフラ、兵站、維持管理については、DICASが取り上げるべき最上位の課題であることは間違いない。前方展開する米軍の艦艇や航空機の稼働率を強化するため、米軍は日本の民間施設による修理・整備のレベルを高めることができる。しかしDICASは、単に日本が米軍にサービスを提供するというモデルを超えて、同盟の統合運用をさらに押し進める機会にもなれるはずだ。 例えば、自衛隊と米軍双方が使用している基地内の燃料貯蔵タンクを繋げることができれば、攻撃に対する強靭性を高めることができ、近隣の軍事施設の燃料を共同契約すればコストの削減にも繋がる。同様に、日本がバンカー(掩体)や硬化施設の建設など抗堪性強化に多くの投資を行っている中で、米国も同じ請負業者を活用すれば、米軍基地の一部をより効率的に強化することができる。また、サプライチェーンの共通化を進める上で、日米両国の規格を相互に認証連携した補給・兵站管理ツールを採用することも検討すべきだろう。そうすれば、両国はお互いが有する部品や補給品を可視化できるようになり、ACSA(物品役務相互提供協定)を通じて必要な物資をタイムリーに融通することが容易になる。これは、現場部隊の即応性を最大限高めることにつながる。これらのイニシアティブのほとんどは、いずれも低コストであり、全て1年以内に開始することができるはずだ。 「低コストかつ迅速に実現可能」という視点は、攻撃能力の取得・配備に関しても取り入れることができる。日本が国産で開発したり、米国からも調達している長距離精密誘導兵器は、いずれも高価であり、生産ペースや納入率が低いという難点がある。米国も同様の課題に直面しており、インド太平洋地域で鍵となるトマホーク、JASSM-ER、LRASMなどの各種巡航ミサイルも必要な分だけ生産・備蓄できていない。ウクライナにおける戦争や多くの研究が結論づけているように、対中有事ではこれらの弾薬が数万から数十万単位で必要になる可能性がある。そこでDICASは、高価で数が限られる巡航ミサイルのような弾薬だけでなく、既存の技術や備蓄を活用することで、低コストかつ迅速な大量生産・配備が可能なオプションを共同で開発・取得することを検討すべきだ。一例としては、JDAM(統合直接攻撃弾)に小型のジェットエンジンと補助翼を装着することで、その射程を延伸するパワードJDAMのようなものが考えられる。また、航空機発射型だけでなく、地上発射型や水上発射型、対艦攻撃型なども検討することで、現在計画済みの攻撃オプションを補完・多様化できる。 もう一つの例として挙げられるのは、国防省が進めている「レプリケーター・イニシアティブ」における協力である。国防省はこのイニシアティブを通じて、来年夏までに消耗可能な(使い捨てにできる)自律型無人システムの大量配備を加速させることを目指している。これらのシステムの多くが西太平洋で運用される必要があることを踏まえると、国防省は日本との間でこの構想に関する情報開示を行い、その配備オプションについて議論を始めるべきである。またDICASは、この秋日本で新設される予定の防衛イノベーション技術研究所と米国の国防イノベーションユニット(DIU)の橋渡しを行い、これらの組織がレプリケーターに関連する能力の共同生産と将来の共同開発を行うことを主導することもできるだろう。