「みんな危ないよ!」傷ついた魚から仲間への警報物質を発見 理研と東大
傷ついた魚の皮膚から出て、周りの仲間に危険を知らせる警報物質を発見したと、理化学研究所と東京大学の研究グループが発表した。1938年に存在が指摘され、後にノーベル賞の授賞理由の一部ともなった物質の実体が、80年あまりを経て分かった。動物が危険を回避する神経の仕組みやコミュニケーションでのにおいの役割の理解のほか、化学物質による魚の行動制御に役立ちそうだという。
解明に多くの研究者が挑んできた
嗅覚系は、においやフェロモンの分子を受け取り、その情報を鼻から脳へと伝え、特有の行動や内分泌系、自律神経系の変化を引き起こす神経の仕組み。危険を避ける、食べ物にありつく、性行動に結びつくなど生物にとって重要な働きだ。 オーストリアの動物行動学者、カール・フォン・フリッシュ(1886~1982年)は1938年、傷ついた魚の皮膚から水中に出る何らかの物質が、仲間の魚に危険を知らせて忌避の行動を引き起こす現象を発表。1973年、それぞれ動物行動学を開拓した2人の研究者と共にノーベル生理学・医学賞を受賞した。この物質の特定に多くの研究者が挑んできたが、解明に至らなかった。なおフリッシュは、ミツバチが蜜の場所を教え合うダンスの研究で特に知られている。
こうした中、研究グループの理化学研究所脳神経科学研究センターシステム分子行動学研究チームリーダーの吉原良浩さん(神経科学)らの研究グループは、実験によく使われる熱帯魚のゼブラフィッシュを使い、解決を目指した。
脳の「糸球体」に着目
まずゼブラフィッシュの皮膚の抽出物を別の個体がいる水槽に入れると、高速で泳ぐ、じっと動かなくなる、水底にとどまるという特徴ある行動がみられた。一方、鼻の奥にあり、においやフェロモンの分子を感知する細胞「嗅上皮(きゅうじょうひ)」を除去すると、これらの行動は全くなくなった。フリッシュの指摘通り、皮膚から出る何らかの嗅覚物質が働いているのだ。
鼻に入ったにおいの分子は嗅覚受容体が受け取り、この情報が脳の領域「嗅球」の表面にある構造「糸球体」に伝わる。嗅球には神経線維がつながっており、情報がさらに高次の嗅覚中枢に伝わっていき、個体がさまざまな行動をするに至る。ここで、ある特定のにおいの分子は、それに対応する嗅覚受容体と、鍵と鍵穴が合わさるように結合する。1つの糸球体は1種類の嗅覚受容体群からの情報しか受けない。こうして、鼻から脳に至る神経の配線が、さまざまなにおい分子を識別して機能している。