「みんな危ないよ!」傷ついた魚から仲間への警報物質を発見 理研と東大
研究グループは免疫の仕組みを利用した実験を行い、ゼブラフィッシュの皮膚抽出物が具体的に「dGa」「lG4」「vpG2」という3種類の糸球体を働かせることが分かった。
遂に解明、2つの物質が同時に働く
次に、ゼブラフィッシュの水槽に金魚やメダカの皮膚抽出物を入れてみると、金魚の抽出物ではlG4とvpG2が働いたものの、中程度の忌避行動にとどまった。メダカの抽出物ではvpG2だけが働いたが、行動は非常に弱かった。つまりvpG2の働きはかなり、大人しい。ゼブラフィッシュの強い忌避行動のために重要な糸球体は、dGaとlG4であることがうかがえた。
ゼブラフィッシュの皮膚抽出物に含まれ、dGaやlG4を働かせる物質の精製や特定を試みた。クロマトグラフィーや質量分析により、dGaを働かせるのは新発見の物質、lG4は物質としては既知だがこれまで機能が分からなかった物質であることを突き止めた。それぞれ「硫酸化ダニオール」「オスタリオプテリン」と命名した。後者はゼブラフィッシュだけでなく金魚やコイ、ドジョウなど淡水魚の7割を構成する骨鰾(こっぴょう)上目が共通に持つ物質という。 この2つの物質を人工的に合成し、混ぜて水槽に入れると、ゼブラフィッシュは強い忌避行動を示した。
一連の結果から、ゼブラフィッシュは傷ついた皮膚から硫酸化ダニオールとオスタリオプテリンを出し、仲間のdGaとlG4を同時に活性化していることを突き止めた。こうして仲間に危険を知らせ、忌避行動を引き起こしている。硫酸化ダニオールは仲間の存在を、オスタリオプテリンは危険を知らせるシグナルと考えられるという。
魚の行動制御、漁業や外来魚駆除に活用も
吉原さんは「80年にわたり物質の特定に失敗してきたのは、全ての研究者が、原因が単一の物質であるとの仮説の下に、魚の行動を指標にしたためだ。私たちは嗅球の神経活動からdGaとlG4の重要性を見いだし、これらを働かせる物質を精製するなど、全く異なる戦略により成功した」と話している。