日本の「平和ボケ」はもはや立派な観光資源? インバウンドが虜になる日本の「静寂」と「余白の美」、その観光価値を考える
観光ではなく“生活”をしに来る訪日客
夕食はほぼ外食に頼っている筆者は、時々住宅地にひっそりとたたずむ地元の飲食店に足を運ぶことがある。最近では、若い韓国人のカップルや、中国人や韓国人の若い男性のひとり客を見かけることが増えている。 観光中だとしても、このような庶民派の店を訪れるのは少し意外だが、彼らがインバウンドであることはほぼ間違いないだろう。むしろ、その庶民的な雰囲気を楽しんでいるようにも感じられる。SNSやネットのグルメガイドを駆使すれば、地元の人しか行かないような住宅地の店でも簡単に見つけて訪れることができる。 また、一部のインバウンドは、単なる観光や留学、就業を超えて、日本で“生活”を楽しんでいるように見えることがある。ネット記事や掲示板で、若いインバウンドがスーパーで割引された弁当を買っているという話を見かけたり、実際にそうした客を見かけたりすることもある。彼らは、飲食費を節約して、日本での滞在を少しでも長くしようと考えているのだろうか。 かつて、1970年代から1990年代にかけて、タイに住み着いていた欧米や日本の若者たちがいたが、今はその場所が日本になっているのかもしれない。円安もあって、状況は変わったようだ。 一方で、富裕層の移住も進んでおり、東京の中央区や文京区などの都心で、中国人富裕層が中古タワーマンションを購入し、子どもを日本の学校に通わせるケースが増えているというデータもある。 観光地を巡った後、リピーターのインバウンドは「何もしない系旅」を新鮮に楽しむようになり、さらに日本の日常生活や文化に溶け込むような旅を求めるようになっているのかもしれない。つまり、彼らは日本滞在中の“余白の美”を見つけたのだろう。 日本滞在における“余白の美”は、観光産業に新たな可能性を開く視点であり、「何もしない」ことを含めた日本の生活が持つ落ち着いた安らぎと美しさは、今後ますます海外から注目される大きな魅力となっていくのだろう。
仲田しんじ(研究論文ウォッチャー)