日本の「平和ボケ」はもはや立派な観光資源? インバウンドが虜になる日本の「静寂」と「余白の美」、その観光価値を考える
時間的な“余白の美”の効能
日本の美意識のひとつ“余白の美”は、最近海外でも注目されている。 ・水墨画 ・日本庭園 のデザインに見られる何もない余白のスペースは、その重要性が高く評価されている。この余白は、デザインだけでなく、タイムマネジメントや生産性、さらにはメンタルヘルスにも影響を与え、特に「何もしない」時間の効能が注目されている。 実は、「何もしない」時間、つまり空想にふけっているとき、脳は作業中よりも活発に動いていることがわかっている。カナダのブリティッシュコロンビア大学が2009年に発表した研究によると、空想にふけっているときの脳は、これまで考えられていたよりもずっと活発だという。 実験では、参加者の脳活動がfMRI(磁気共鳴機能画像法)でモニターされ、何もしていないときのほうが、問題解決を担う脳の領域である外側前頭前皮質や背側前帯状皮質が活発に働いていることが明らかになった。 つまり、何もせずぼんやりと空想にふけっているとき、脳は非常に活発であり、 ・知的生産性 ・問題解決 において有効であることが示された。「何もしない系旅」は、こうした“余白の美”を体験することで、意外な発想や解決策を生む場になるかもしれない。
人気スポットとグルメ、体験の多様化
時間的な“余白の美”が評価され、また「何もしない系旅」の効能にも注目が集まっているが、日本には目的地に移動するだけで、特に身体をアクティブに動かすわけではない 「ゆる系旅」 も豊富にある。例えば、愛媛県の青島や福岡県の相島、宮城県の田代島などは“猫島”としてCNNなどの海外メディアでも紹介されており、猫好きのインバウンドにとって人気の目的地だ。 「ゆる系旅」の代表的なものに食べ歩きがある。ラーメンやカツカレー、すし、てんぷら、焼き鳥など、インバウンドに人気の食文化が豊富に楽しめる。そのなかでも、彼らの一部は生卵を食べることを、日本ならではの食体験として楽しんでいる。筆者(仲田しんじ、研究論文ウォッチャー)も東京都文京区の飲食店「喜三郎農場」に行ったことがあるが、コロナ禍明けからインバウンドが増え、特に卵かけご飯を味わっている姿が印象的だった。 また、日本独自のバスツアーも「ゆる系旅」として人気だ。あらかじめ決められたスケジュールで気軽に観光名所を巡り、グルメを楽しむことができる。ツアー料金も格安で、手軽に日本を満喫できる。 さらに、女性のリピーター訪日客を中心に、美容院やネイルサロン、エステティック、歯科ホワイトニングなどを目的とした美容観光も人気が高まっている。加えて、医療水準の高い日本で治療や検診を受ける医療観光も、特に富裕層に注目されており、政府は2011(平成23)年から医療滞在査証(医療ビザ)を発行し、最長6か月の滞在や複数回の入国を可能にしている。 インバウンドが盛況な日本では、訪れる目的や動機が年々多様化し、より深くなってきている。