NGリスト問題と株主総会/危機管理の切り口から見る近時の裁判例(その4)
3 最近の危機管理・コンプライアンスに係るトピックについて
執筆者:木目田 裕、宮本 聡、西田 朝輝、澤井 雅登、寺西 美由輝 危機管理又はコンプライアンスの観点から、重要と思われるトピックを以下のとおり取りまとめましたので、ご参照ください。 なお、個別の案件につきましては、当事務所が関与しているものもありますため、一切掲載を控えさせていただいております。 【2024年7月23日】 日本監査役協会、「主要監査業務のポイントと事例研究―監査の実効性と効率性の向上を目指して―(最終報告)」を公表 https://www.kansa.or.jp/news/post-13465/ 日本監査役協会は、2024年7月23日、監査役スタッフ研究会が取りまとめた「主要監査業務のポイントと事例研究―監査の実効性と効率性の向上を目指して―(最終報告)」を公表しました。本報告書は、監査業務に関するテーマごとに、趣旨・目的、業務上のポイント及び留意点等をまとめたものです。留意点として、例えば以下の点を挙げています。 (1)事業所、子会社等への往査 ・往査先では監査役監査への理解が乏しく、内部監査等と混同され、必要以上に警戒される場合があるため、監査役監査についてあらかじめ理解を促しておくことが望ましい。特に、監査役の職責は取締役の職務の執行を監査することであり、往査はそのための情報収集であることを往査先には理解してもらう必要がある。 ・監査役制度のない海外子会社には監査役制度についての丁寧な説明が必要である。 (2)子会社監査役との連携 ・親会社監査役が子会社の調査を行う目的は自社の取締役の職務執行を監査することであり、子会社取締役の職務執行の監査は子会社監査役の職務権限事項であることに留意する。 ・子会社の設立趣旨、規模、事業形態、事業環境等は様々であり、それに応じて監査役の監査項目等も異なってくることに留意する。 (3)内部監査部門との連携 ・監査役にとっては内部監査部門も監査対象であり、内部監査部門の監査に立ち会う際には内部監査部門の監査手続きや組織体制等についても確認を行い、課題等があれば内部監査部門長や代表取締役と協議する。 ・監査役スタッフが内部監査部門を兼任するケースが多いが、一方の情報を他方に提供する際には立場の違いを意識する。 ・監査役や会計監査人と異なり、内部監査部門の設置、活動を規定する法律は無いため、その独立性、実効性については監査役からの支援も重要である。 【2024年7月31日】 総務省、「ICTサイバーセキュリティ政策の中期重点方針」を公表 https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01cyber01_02000001_00219.html 総務省は、2024年7月31日、ICTサイバーセキュリティ政策分科会が取りまとめた「ICTサイバーセキュリティ政策の中期重点方針」を公表しました。 本方針は、総務省が今後中長期的に取り組むべきサイバーセキュリティ施策の方向性として、主に以下の点を挙げています。 (1)重要インフラ分野等におけるサイバーセキュリティの確保 通信、放送、自治体及びデータ流通基盤におけるセキュリティ対策の見直し推進など。 (2)サイバー攻撃対処能力の向上と新技術への対応 国の機関や地方公共団体等に対するサイバー攻撃等の実践的なインシデント対応に関するトレーニングプログラムの提供、セキュリティ対策へのAIの活用など。 (3)地域をはじめとするサイバーセキュリティの底上げに向けた取組 各地域の実情の把握、地域向けの普及啓発活動を行う機関との更なる連携の拡大、特定の業界・参加者向けといったターゲットを明確にしたイベントの拡充、サイバーセキュリティに関する既存のガイドラインの周知啓発、必要に応じた改定など。 (4)国際連携の更なる推進 サイバーセキュリティ政策に関する取組の積極的な情報発信等による、サイバーセキュリティ分野における日本の国際的なプレゼンス向上、日ASEANサイバーセキュリティ能力構築センター(AJCCBC)のプラットフォームとしての役割拡充など。 【2024年8月1日】 日本取締役協会、「上場企業のコーポレートガバナンス調査(2024)」を公表 https://www.jacd.jp/news/opinion/cgreport.pdf 日本取締役協会は、2024年8月1日、「上場企業のコーポレートガバナンス調査」を公表しました。日本取締役協会は、2004年以降、上場企業(東証一部上場企業又はプライム上場企業)における、社外取締役・独立社外取締役の導入状況について定点調査を行っており、本調査も、この定点調査の一環として、2024年8月1日時点の社外取締役や独立社外取締役の就任状況についてとりまとめたものとなります。 本調査によると、東証プライム上場企業における取締役の総数は15,322名であり、1社あたりの取締役の平均人数は9.3名となっております。そして、東証プライム上場企業のうち、社外取締役を選任している企業の割合は100%であり、独立社外取締役※30を選任している企業の割合は99.94%となっております。 ※30 独立社外取締役とは、社外取締役のうち、金融商品取引所が定める独立性の基準を満たす者を指します。 また、東証プライム上場企業における独立社外取締役の人数については、5人以上を選任している企業が最も多く(32.3%)、取締役会に占める独立社外取締役の割合は、3分の1から半数までの企業が最も多くなっております(77.8%)。 なお、本調査は、女性や外国人の取締役の割合等については言及しておりませんが、東証プライム上場企業の社外取締役のうち女性の割合は33.3%(2024年7月時点)※31、東証プライム上場企業のうち外国人の社外取締役を起用する企業の割合は7.2%(2023年7月時点)という調査結果がございます※32。 ※31 株式会社プロネッドによる調査結果です( https://proned.co.jp/archives/8302 )。 ※32 株式会社プロネッドによる調査結果です( https://proned.co.jp/archives/6342 )。 【2024年8月2日】 証券取引等監視委員会、「令和6事務年度 証券モニタリング基本方針」を公表 https://www.fsa.go.jp/sesc/news/c_2024/2024/20240802-2.html 証券取引等監視委員会は、2024年8月2日、「令和6事務年度 証券モニタリング基本方針」を公表しました。本方針は、近年の金融商品取引業者等を取り巻く環境等を踏まえ、令和6事務年度における、金融商品取引業者等に対する証券モニタリング※33の主な検証事項等について取りまとめたものです。 ※33 証券モニタリングとは、金融商品取引法第56条の2等の検査権限に基づく「検査」と、検査以外の「モニタリング」を総称するものです。 本方針は、近年の金融商品取引業者等を取り巻く環境等について、顧客本位の業務運営等の要請※34や、詐欺的な投資勧誘による被害急増、持続可能なビジネスモデルの構築や新たな金融商品の広がり※35といった変化があったことなど※36を指摘しています。その上で、本方針は、業態横断的な検証事項として、以下の事項を指摘しております。 ※34 2024年3月に策定された「国民の安定的な資産形成の支援に関する施策の総合的な推進に関する基本方針」において、金融事業者による顧客本位の業務運営の確保に向け、顧客の最善の利益に資する商品組成・販売・管理等を行う態勢が構築されているかについてモニタリングを行うことが盛り込まれたことなどが指摘されています。 ※35 他の証券会社や金融機関との業務提携や、市場環境や顧客ニーズの変化に則したサービスの提供等の動きや、PTSセキュリティトークンの取扱いが開始されたことが指摘されています。 ※36 そのほかにも、デジタル化への進展等への対応や資産運用の高度化・多様化といった金融商品取引業者等を取り巻く規制の枠組み等の変更があったことや、昨年度のモニタリングを通じて、適合性原則に抵触する不適切な運営を行っていた金融商品取引業者等の存在が認められたことなどが指摘されています。 ・適合性原則を踏まえた適正な投資勧誘等に重点を置いた内部管理態勢の構築や、顧客本位の業務運営を踏まえた販売状況等 ・デジタル化の進展等を踏まえたビジネスモデルの変化と、それに対応した内部管理態勢の構築 ・サイバーセキュリティ対策の十分性や、デジタル化の進展に伴うシステムリスク管理の対応状況 ・AML/CFT(マネー・ロンダリング対策、テロ資金供与対策)に係る内部管理態勢の定着状況 ・内部監査の結果及び自主規制機関の監査等で指摘された事項に係る改善策及び再発防止策の取組状況
木目田 裕,宮本 聡,西田 朝輝,澤井 雅登,寺西 美由輝