「自分の存在価値を疑ってしまう」中年男性が陥りやすい“孤立”とは? #今つらいあなたへ
9月10日から16日は自殺予防週間です。コロナ禍の影響により、2020年以降は2019年に比べ自殺者数が増加しました。特に女性はコロナ禍による仕事や生活環境の変化が大きく、2年連続で増加しています。また女性の自殺者が増える一方で、2022年は中年期を迎えた男性著名人の自死が世の中に大きな衝撃を与えました。「中年期」に陥りやすい課題、現代人が自殺に追い込まれてしまう原因とはどのようなものなのでしょうか。自殺対策に取り組む、国立精神・神経医療研究センター薬物依存研究部長の松本俊彦先生に話を聞きました。(取材:たかまつなな/笑下村塾/Yahoo!ニュース Voice)
退職すると居場所がなくなってしまう中年男性たち
――中年男性はどのような悩みを抱えるケースがあるのでしょうか? 松本医師: 男性はメンツやお金といった、家の外の問題で追い詰められやすいと思います。多くの男性は仕事一筋でやってきているので、自分の評価基準が肩書きや役職になります。退職してそういったものを失った後、“ただの人”に戻れなかったりするんですね。家の中でも居場所がなくなってくると「自分はいない方がいいのかな」なんて考えるようになってしまう。 我々は長生きになったので、定年後の人生も長い。会社に残ったとしても、役員から離れて部下だった人に指導を受けることも孤独を募らせます。若い頃は友達がたくさんいたけれど、競争していく中で減っていく。上下関係の中で生きてきたため、孤立しちゃうんですね。 ――家族がいても孤独を感じてしまうのでしょうか? 松本医師: 父親という立場だと弱音を吐きにくいし、子どもも思春期になるとひどいことも言うようになります。パートナーとも、結婚当初とは関係性が変わってきますよね。中高年の男性で「俺はただの歩くATMだから」と自虐的な人もいますが、仕事を失うとATMとしても機能しなくなるので、自分の存在価値を疑ってしまう。 また、社内でハラスメントなどがあって、仕事ができなくなる男性もいるんです。休職してプログラムを受けて再就職するけれど、うまくいかなくてまた休職する。長引いて手当がもらえなくなると、奥さんが仕事に出るようになったりします。お金を稼ぐことでポジションを得ていた男性は、あっという間に居場所を失ってしまう場合もあります。 理想としては、こうなる前に仕事とも家庭とも違う“第3の場所”を作っておくことが大事です。利害関係のない仲間と、趣味や好きなことを通じて繋がっている方が、困難や環境の変化に適応しやすいですね。 ――中年期に直面する課題に加えて、さらにコロナ禍は人々にどのような影響を与えたと言えますか? 松本医師: 私は依存症の回復支援などにも携わっていますが、自助グループは対面で会うことができなくなりましたし、一般の方たちも対面で会ったり飲み会などもできなくなりました。主婦はママ友同士でランチすることもできない。子どもたちは学校が休校になり、再開後も部活や行事が再開されていないし、放課後に遊ぶこと自体減っています。 小中高生の自殺は、学校行事が少ない時期に多く発生しています。本来は友達同士で「なんか、だるいよね」とか、大人だと同僚と上司の悪口を言って盛り上がるといったところで、人は救われていたのではないでしょうか。これまで一見、無駄に思われていたおしゃべりをコロナは奪ってしまいました。