「自分の存在価値を疑ってしまう」中年男性が陥りやすい“孤立”とは? #今つらいあなたへ
自殺を誘発する“孤立”を防ぐために
――他者とのコミュニケーションが減り、孤独になると自殺に繋がりやすいということでしょうか? 松本医師: 私が警戒しているのは“孤独”よりも“孤立”。孤立は助けを求めているのに誰も周りにいないとか、情報が入ってこない状況です。死を考える人というのは、「直面している問題を解決できそうにもないから、死ぬしかない」と思ってしまうんです。 誰かに相談して解決したり、そうでなくても一緒に考えていこう、という気持ちになればいいのですが、自分一人だと思いつくアイデアが限られてしまう。思考が同じところをグルグル回っていることに自分でも気づけず、もう解決できない。苦しみから逃れるためには一切の意識活動を停止するしかない。つまり「死ぬ」と結論づけてしまいやすいんです。 ――「孤立している」と自覚がない人はどうすればいいのでしょうか? 松本医師: 「死にたい」とか「何のために生きているんだろう」と思ったときは孤立していると思っていいかもしれません。自覚するのは難しいですし、特に男性はそういうのを否定したいという心理が働きやすい。女性の方が自分の気持ちを受け止めやすいので、男女で見ると女性の方が窓口に繋がりやすいんです。だから男性の方にはぜひ窓口への相談を試みてほしいです。 ――周りの人がSOSに気づくためにはどうすればいいと思いますか? 松本医師: いつもと様子が違うことに注意することですね。落ち込んでいたり、食欲がなさそう、お酒の量が増えていたり、夜眠れていなさそうとか。逆に、変に明るく振舞うときも実は前兆だったりします。 ここで気に留めてほしいのは、周りの人が「困ったことがあったら相談して」ということも大事ですが、実は心配かけたくないという思いから“一番大切な人には一番困っていることを話さない”ことがあるんです。だからこそ、精神保健福祉センターや保健所など、リアルな生活や人生に関わらない場所にいる人の方が、正直に話せる可能性が高いということも知ってほしい。 ――必要とされている、居場所があると感じてもらえるにはどうしたらいいのでしょうか? 松本医師: 何かある度に「ありがとう」ということが、本人にとって役割を感じることに繋がると思います。あとは、家庭内であれば一人になれる場所があるといいですね。コロナ禍で家庭内の軋轢が増えていますが、一番の問題は“場所が狭い”という気もします。わかりやすく言うと、衝突が起きたときに逃げる場所がないんです。お父さんがダイニングの真ん中でオンライン会議をすることにより、他の家族が居場所を失うということもあったでしょうし、逆にそれができないお父さんもいました。車の中で仕事をしたり、県外に出てパチンコをしていたら自粛警察に目をつけられたり。どうしても苦しいときは、各都道府県に一カ所はある精神保健福祉センター、行政機関が閉まっている時間であればホットラインがあるので、今の気持ちを伝えてみてほしいです。 ---- 松本俊彦 精神科医。横浜市立大病院などを経て、2015年から国立精神・神経医療研究センターの薬物依存研究部長。自殺問題に詳しく、薬物依存治療の国内第一人者として知られる。自伝的なエッセイを綴った『誰がために医師はいる』で、2022年に日本エッセイスト・クラブ賞を受賞。そのほか自傷・自殺関連の著書多数。 ※この動画記事は、笑下村塾「たかまつななチャンネル」とYahoo! JAPANが共同で制作しました