〈真相〉フォルクスワーゲンが犯した大きな二つの失敗、欧州最大の自動車メーカーの悲惨な末路、日本の産業界は何を学ぶべきか
補助金廃止で、消費者はBEVに背を向けた。23年12月のBEV販売台数は約5万5000台だったが、24年1月には約2万2000台に減った。逆にハイブリッド車や、ガソリンまたはディーゼルエンジンを使った車の売れ行きが伸びた。 つまりVWは、政府の意向に沿ってBEVに全精力を集中していたが、突然政府の援護射撃を失った。ニーダーザクセン州政府のヴァイル首相も「昨年12月の補助金廃止は、失敗だった」と連邦政府を批判している。同首相はVWグループの監査役の一人として、同社のBEVシフトを積極的に支持した政治家の一人だ。 VWの労組は、「経営陣がBEVを偏重し、ハイブリッド車を開発しなかったのは経営ミスだ」と批判している。 ドイツの論壇では、「日本の自動車メーカーが、VWのように早くからBEVに経営資源を集中させず、様々な車種を併存させる戦略を取ったのは正解だった」という論調が増えている。
中国への過度な依存が裏目に
VWグループが犯したもう一つのミスは、中国市場への過度な依存だ。今年9月、同社のアントリッツ財務担当取締役は、「これまでVWグループは、国内乗用車部門の低い収益率を、中国事業での収益によってカバーすることができた。しかし我が社の中国市場でのマーケットシェアは減っており、もはや中国からの収益に頼ることはできない」という趣旨の発言を行った。 VWグループの年次報告書によると、23年にVWグループが世界で売った936万台の車の内、32.7%にあたる307万台が中国で売られた。だがVWは、中国の消費者が好む割安なBEVの開発に遅れており、マーケットシェアが下がりつつある。 長年VWは中国の自動車市場で首位に立っていた。しかし今年1~9月のVWグループの中国での販売台数は、中国メーカー比亜迪(BYD)に初めて抜かれた。今年1~9月のVWグループの中国での販売台数は、前年同期比で11.5%減った。 中国では、政府補助金のために、欧州とは対照的にBEVの方が内燃機関の車よりも値段が安い。このためVWグループが得意とする内燃機関の車が新規登録台数に占める比率は、20年の94%から今年上半期には59%に激減した。 ちなみに中国に大きく依存していたのはVWだけではない。BMWとメルセデス・ベンツでも世界で売る車10台の内ほぼ3台が中国で販売されていた。中国では若年労働者の失業率の上昇や不動産バブルの崩壊などによって国内総生産(GDP)成長率が鈍化しつつあり、ドイツの高級車への需要が減っている。BMWの今年1~9月の営業利益は前年同期比で31.6%、メルセデス・ベンツの今年1~9月の営業利益も前年同期比で34.5%減った。