〈真相〉フォルクスワーゲンが犯した大きな二つの失敗、欧州最大の自動車メーカーの悲惨な末路、日本の産業界は何を学ぶべきか
乗用車部門の営業利益率の低さがアキレス腱に
経営陣が最も問題視しているのは、国内のVW乗用車部門の収益性の低さだ。この部門の24年上半期の営業利益率は2.3%で、高級車ブランドであるポルシェの15.7%、アウディの6.4%に比べて大幅に低い。経営学の世界では、営業利益率は5%を上回る必要があるとされている。 VWグループは、今後コネクテッドカーの開発などに多額の投資を必要とする。しかしVWグループのフラッグシップ(旗艦)である乗用車部門の営業利益率が5%に達していない状態では、投資が集まらない。 低収益性の原因の一つは、人件費の高さ。VWグループはドイツ政府に手厚く守られた過保護企業だ。 VWグループの議決行使権付き株式の20.2%はニーダーザクセン州政府が持っている。ドイツ政府は「VW法」という法律によって、外国企業が同社を買収しようとしても、ニーダーザクセン州政府が議決をブロックできるようにした。 ドイツの株式法によると、議決行使権付き株式の25%を持たないと、このような拒否権を行使できないが、VWだけは特別に外国企業の干渉から保護されているのだ。州政府が経営に参加しているので、州の失業率が急増するような改革に踏み切れないという問題点もあった。 また通常ドイツの製造業界の賃金協定は、全金属産業組合(IGメタル)が経営団体と交渉して決める。だがVWの従業員たちは、「ハウス・タリフ」と呼ばれる、IGメタルの賃金協定を上回る賃金水準を与えられていた。VWは、ドイツの自動車業界で最も給与水準が高い企業の一つとして知られる。
政府のBEV拡大政策を過信
VWグループが犯した失敗の一つは、政府が購入補助金によるBEV(電池だけを使う電気自動車)の支援を続けると信じ、EV一辺倒の経営戦略を取ったことだ。ドイツ政府は30年までに1500万台のBEVを普及させるという目標を持っている。 前のメルケル政権は、20年にコロナ禍に対する景気浮揚策の一環として、BEVなどの購入補助金の内、政府負担分を2倍に増やした。このためドイツでは一時的にBEVブームが起きた。BEVの年間販売台数は19年の約6万台から、23年には約52万台に増えた。 VWはドイツ政府のBEV路線に最も忠実に従った企業だ。同社の乗用車部門のエムデンとツヴィッカウ工場では、内燃機関の車の生産をやめ、生産ラインをBEVに一本化した。同社の経営陣は「モビリティの未来はBEV」と繰り返し、ハイブリッド車を開発・販売しなかった。これに対しBMWやメルセデス・ベンツでは、VWに比べると、BEVに早くから一本化せず、水素や内燃機関の車にも含みを残す姿勢が目立った。 ドイツ政府はコロナ禍、ウクライナ戦争などによる経済危機の際に、常に潤沢な補助金で市民・企業を支えてきた。だがこの治療法に、司法の鉄槌が下った。 23年に連邦憲法裁判所がショルツ政権の過去の予算措置を憲法違反と判断したため、予算の内600億ユーロ(9兆6000億円)が無効になり、政府は深刻な財政難に陥った。このため政府は、24年末まで続ける予定だったBEV購入補助金(政府負担分)を、23年12月に突然廃止した。